SDGsの今を知る VOL.5 クラウドクレジット編集部
SDGsのゴール4には「質の高い教育をみんなに」が掲げられています。今回は、この目標の詳細や世界の教育格差の現状や問題点、日本の状況について解説します。
「質の高い教育をみんなに」が意味するものとは
教育については、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の頃から「初等教育の完全普及の達成」という形で定められていました。MDGsからSDG sに変わったことで、より包括的な目標に変化しています。例えば、ゴール4に付随するターゲットには男女平等に関する文言のあるものが7つ、職業訓練に関する文言のあるものが4つ、障害者や先住民に関する文言のあるものが2つあり、「初等教育」に限定する目標からまさに「みんなに」対する目標になっているようです。
MDGsで定めていた子どもに関する目標はそのまま更に深化させ、それに加えて子どもだけでなく弱い立場にある人々全般に範囲を広げています。
世界の教育格差の現状と問題点―経済合理性と文化の多様性―
世界の教育の状況は識字率から推し量ることができます。世界銀行の統計によると、15歳以上の男女の識字率はともに上昇傾向にあり、改善していると言えます。一方、男女ともに世界平均と低・中所得者の平均を比較すると、低・中所得者の識字率が一貫して低い結果となっています。このことから、所得の低い人たちへの教育アプローチが引き続き重要であると言えるでしょう。また、男女の識字率を比較すると女性の方が低い結果となっています。世界では「文字の読み書き」という基本的な教育においても男女の格差があるようです。SDGsにおいては、こうした現状を踏まえて「男女平等」に関するターゲットを設定していると考えられます。
世界の教育の普及状況を、学校に通えていない人数から見てみましょう。同じく世界銀行の統計によると、学校に通えていない人数は男女ともに減少傾向にあり改善していると言えます。一方、識字率同様、低所得者の学校に通えていない人数は男女ともに横ばいの結果となっています。こちらの統計からも、所得の低い人たちへの教育アプローチが引き続き重要であるとの結論が導かれます。また、男女の統計を比較するとかつては識字率と同様に男女格差があったようですが、現在はほぼ同数となっています。
以上2種類の統計から考えると、世界全体として教育の普及率は上昇しており改善傾向にあります。しかしながら、貧困層には30年前と変わらず学校に通うことができない人が存在し、そうした人々の中には文字を読むことができず、貧しさから脱却できるような職に就く機会が失われている人もいるようです。
一方、教育の重要性は経済的側面だけでなく文化的側面からも捉える必要があります。中国における少数民族の教育を見てみましょう。中国では文化大革命の頃に少数民族語の教育が禁止されていました。1977年以降、少数民族教育は回復しましたが現在は新たな問題に直面しています。中国で主に使用される言語が漢語であることから、少数民族語で学習を進めても就職できないため、少数民族教育に力を入れた学校を選択する人が減っているようです。また、就職を選択しない場合は早くから伝統技術や農業を習う方が効率的であるため、義務教育期間中に中途退学するケースも増加しているとのことです。言語はもちろん、伝統文化や生活様式が失われつつあると言えます。
この問題を逆の側面からとらえると、漢語の教育により就職機会の格差、所得の格差が低減しているということになります。このように、貧困層に教育を推し進め所得格差を小さくすることは一見望ましいことですが、その教育内容や貧困層に分類される人々が置かれた状況などを精査する慎重さも求められます。
日本における教育格差と所得格差
日本国内では、所得格差と教育格差の相関が指摘されています。親の所得階層が高いと、子供の学力も高くなるという正の相関があるようです。一般的に、子どもの学力が高いと高学歴になる可能性が高く、高学歴は新卒一括採用で有利に働くと考えられています。つまり、親の所得階層が高ければ子供の所得階層も高くなり、親の所得階層が低ければ子供の所得階層も低くなってしまう可能性があります。教育が社会階層の移動を助ける重要なファクターである一方で、教育により社会階層が固定化されている可能性もあるということになります。
このような階層の固定化を避けるためには、従来型の教育とは異なる新しい学校の在り方を模索する必要があります。こうした取り組みの一部である「学校教育のリモート化」は、図らずも新型コロナウイルス蔓延の影響により加速しているようです。子育て中の親及び学習の主体である学生からは賛否両論あるようですが、まずはそうした取り組みも「絶対に不可能ではない」ということが分かっただけでも、これからのWithコロナ時代の新しい教育の在り方を考えるうえで重要ではないでしょうか。今後は、新しい環境への対応が難しい家庭への支援や可視化が一層困難になるネグレクトへの対策といった環境整備が進み、各人が新しい選択肢を前向きに検討できるようになることを願います。
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写真=Linh Pham/Getty Images
クラウドクレジット株式会社 :「日本の個人投資家と世界の信用市場をつなぐ」をコーポレートミッションとして掲げ、日本の個人投資家から集めた資金を海外の事業者に融資する貸付型クラウドファンディングを展開。新興国でのインフラ関連案件も多く、現地のマクロ・ミクロ経済動向などに詳しい。累計出資金額は約309億円、運用残高約156億円、ユーザー登録数4万8000人以上(2020年8月14日時点)