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コロナ禍の銀行、各行の特色で株価動向に違いも

銀行株の戻りが鈍い。業種別東証株価指数(TOPIX)の「銀行業」は20日終値時点の年初来騰落率がマイナス22.5%と、TOPIXのマイナス3.3%を下回る。最もパフォーマンスの良い「情報・通信」のプラス10.8%との差は30%ポイント超に達する。ただ、第1四半期決算を確認すると、必ずしも総悲観と捉えられる内容とは言い切れない結果だった。個別銘柄間の値動きをみるとバリュー株売り圧力にさらされた面や、今後の金利環境変化を捉えた動きが見え始めている。

■業績について

銀行株は出遅れているものの、直近決算は決してネガティブなものではなかった。SMBC日興証券は上場地銀の第1四半期決算は連結純利益で前年同期比12%減、通期計画に対する進捗率は34%と集計し、「与信費用が年率換算10bpと低水準になったことで、高進捗の底堅い内容となった」との見方を示した(17日付リポート)。与信費用は、政府・日銀の中小企業への資金繰り支援策のサポートを受けて軽微にとどまった。JPモルガン証券は「当局の新型コロナウイルス支援策もあって与信費用が想定以下にとどまり、今後の下振れリスクも限定的となる可能性が出てきた」(18日付リポート)との見方を示した。

配当についても、第1四半期決算発表時点で三菱UFJ(8306)や三井住友(8316)、みずほ(8411)がそろって前期実績並みの年間配当を予想した。他行においても目立った減配は見られていない。それでもSMBC日興は「今後も銀行には社会的な要請として、多少経済合理性を逸脱してでも、強力な資金繰り支援の継続が求められるであろうが、一方で引当の十分性も担保しなければならない難しい立場に置かれている」とし、「この“アクセル”と“ブレーキ”をいかに両方うまく踏むかが、第2四半期以降の最大のテーマとなるだろう」と展望した。

マイナス金利で収益性が低下する中で新型コロナと言う未曽有の事態にも見舞われ、今後も企業の倒産などに伴う与信費用の増加が見込まれる。足もとでは政策面での支援があるものの、新型コロナの影響が長期化すればするほど銀行経営への逆風は強まろう。

■バリュー株出遅れの影響

足もとの銀行株が出遅れた要因にはバリュー株への逆風も考えられる。上場銀行82行のPBR(株価純資産倍率、連結ベース)は平均して0.286倍だ。金利が低下する中、3月の急落を経て、グロース株に対しバリュー株が伸び悩む状況が加速した。この動きは日本だけでなく、世界的にみられた現象だ。この間、現場のトレーダーからは「指数を売買する動きよりファクターに投資する動きが良く見られた」(外資系証券)との声が聞かれていた。三菱UFJ(8306)、三井住友(8316)、みずほ(8411)のメガバンク3行と、残り79行の年初来騰落率をみると、メガバンク3行の出遅れが目立つ。

※メガバンク3行と残り79行の年初来騰落率

FactSetの各行の株主データを確認すると、メガバンク3行の海外投資家保有比率は残り79行と比べて高かった。海外投資家による積極的なファクター投資の結果、国内保有比率の高い地銀株にはバリュー株としての売り圧力がやや低減した可能性もある。

■金利の影響

マイナス金利が導入されて以来、収益性が低下し銀行経営に逆風が強まった。環境変化を受けて銀行株は低迷が続いている。足もとにおいても米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利政策を導入したことなどから一層の金利低下となっている。一見、金利が上昇することで金利収入の利ザヤが拡大し、銀行経営も改善するように思えるが、実は各行で事情が異なっている。1点目は金利上昇に伴う債券価格の下落により、投資有価証券に損失が発生するリスクによるもの。2点目は金利の上昇・下落のシナリオ別で現在価値の減少額が異なることだ。

20年3月期のディスクロージャー誌より、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)にNII(Net Interest Income)と呼ばれる指標の算出・公表が全行で始まった。これは、金利が一律100bp上昇・下落、スティープ化、フラットニング化するなどのシナリオを与え、それぞれのシナリオ下で発生しうる金利収益の減少額を表すものだ。

19日時点で20年3月期のディスクロージャーを公表した79行を確認した所、金利が低下するシナリオで金利収益が減少する銀行は51行、金利が上昇するシナリオで金利収益が減少する銀行は28行あった。リスク計算上ではあるものの、一部の銀行は金利上昇局面で業績の逆風になり得る。金利上昇時に金利収益が減少する銀行、金利低下時に金利収益が減少する銀行をそれぞれグループ化し、年初来の値動きを示したのが下のグラフだ。

※金利上昇・低下時に金利収益が減少する銀行の年初来の値動き

6月まで、両ポートフォリオはほぼ同じ値動きだったが、足もとでは金利上昇時に金利収益が減少する銀行のパフォーマンスが劣後している。

9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、現在進められている金融政策の枠組み見直しに進展が見られる可能性もある。今後も金利動向が株価や経済動向に大きな影響を与える可能性が残る中、各行のALM(資産と負債の総合管理)の別に応じて、株価の値動きに差が生じる可能性もあるので留意しておきたいところだ。なお、20年3月末時点で金利上昇時に金利収益が減少する銀行は下記の通り(NII降順)。

コード 銘柄名
7182 ゆうちょ
7167 めぶきFG
7327 第四北越
8354 ふくおか
8600 トモニHD
8418 山口FG
8363 北国銀
7180 九州FG
8303 新生銀
8713 フィデアHD
8345 岩手銀
8356 十六銀
8399 琉球銀
8410 セブン銀行
8387 四国銀
8544 京葉銀
8336 武蔵銀
8395 佐賀銀
8344 山形銀
8521 長野銀
7184 富山第一
8367 南都銀
8362 福井銀
7161 じもとHD
8562 福島銀
8551 北日銀
8365 富山銀
8416 高知銀行

QUICK Market Eyes  大野弘貴)

<金融用語>

与信とは

金銭的な貸付や同等の行為(クレジットカードの発行、保証など)を行う際に、取引相手に融資や融資枠などの信用を与えること。証券会社による信用取引銀行の貸出(融資)、広くは商品を先に渡して後から代金を回収する売掛やツケなどもこれにあたる。与信は主に、融資先の「返済能力(Capacity)」「返済資質(Character)」「返済担保(Capital)」の3つによって評価されるため、頭文字から3Cとも呼ばれている。

著者名

QUICK Market Eyes 大野 弘貴


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