膠着状態が続いてきた原油相場で新たな材料が意識されている。米国のメキシコ湾岸における暴風雨の連続発生だ。2020年はハリケーンを含む暴風雨が多く発生しており、原油の生産施設があるメキシコ湾岸に上陸すれば生産が落ち込むとの警戒が広がっている。一方でガソリンなどの石油製品を精製する製油所の密集地域を直撃すれば原油価格の下落材料になる可能性もある。
■メキシコ湾接近は上昇要因
8月24日のニューヨーク原油先物相場は上昇し、期近の10月物は前週末比0.28ドル(0.7%)高の1バレル42.62ドルで取引を終えた。翌25日の日本時間では1バレル42ドル台半ばで推移している。上昇した要因は米メキシコ湾岸にハリケーン「マルコ」と発達中の熱帯低気圧「ローラ」が接近したことだ。市場では「2つの暴風雨が同時に接近するのは珍しい」と驚きの声が聞かれる。暴風雨の接近に備え、メキシコ湾の石油施設の半数以上が停止した。原油の需給引き締まりを意識した買いが入っている。

地下深くの頁岩(けつがん、シェール)層から原油や天然ガスを採掘する技術が向上し、米国で「シェール革命」が起きた2010年代以降、原油の生産施設や輸入原油の受け入れ施設が位置するメキシコ湾付近で発生したハリケーンは、原油相場に大きな影響を与えるようになった。
20年は記録的なペースでハリケーンが発生すると予想されている。米海洋大気局(NOAA)は6日、大西洋でのハリケーンを含む暴風雨の発生が「極めて活発」となる可能性があると発表した。実際、25日時点で既に例年の暴風雨の発生件数平均を上回っている。野村証券の大越龍文氏は「今後もハリケーンの接近が意識されるたびに、原油相場に上昇圧力がかかるだろう」とみる。
■テキサス州接近は下落要因
ハリケーンが、製油所が密集するテキサス州東部に向かえば、原油相場の下落要因になる可能性もある。ある原油業界に詳しいエコノミストは「ハリケーンがテキサス州に向かい、大雨で製油所が冠水すれば、素材となる原油そのものがだぶつき、原油相場が下押しされる可能性がある」と分析する。
振り返れば17年に米国を襲った大型ハリケーン「ハービー」のケースが当てはまる。ハービーはテキサス州を直撃し、多くの製油所が停止。余剰感が強まると判断された原油先物は売られた。一方、前出のエコノミストは製油所の停止は精製が滞る軽油やガソリンなど石油関連製品にとっては上昇要因だと指摘する。「製油所に影響があった場合も、ガソリンなどにつられる形で原油相場は上昇するのではないか」とみていた。〔日経QUICKニュース(NQN)山田周吾〕
<金融用語>
シェール革命とは
天然ガスの一種であるシェールガスが米国で本格的に生産開始されたことにより、世界のエネルギー供給体制が大きく変化するという考え。シェールガスは油田やガス田から生産される従来の天然ガスとは異なり、地中深くにある頁岩(けつがん・シェール)という固い岩盤層の中に滞留している。 米国では、掘削技術や採算性の向上により石油などに代わる新たなエネルギー資源として生産が拡大しており、米貿易収支の改善、米企業のコストの低下など米国経済の長期的なプラス要因として考えられている。 シェールガスとシェールオイルの推定可採埋蔵量は、ロシア、アメリカ、中国などが多い。