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パーム油は高値圏維持~マレーシアの需給タイト化―マーケット・リスク・アドバイザリー・新村氏

記事公開日 2020/9/1 14:00 最終更新日 2021/1/26 15:13 インドネシア 商品市況 マレーシア 新型コロナウイルス パーム油 代替エネルギー

価格が低迷していたマレーシアのパーム油だが、ここにきて急速に価格水準を切り上げている。弊社がウォッチしている商品の中では、コロナの影響で生産調整が行われた木材や気温上昇による天然ガス、投機的に積極的に物色された銀に次ぐ前期比上昇となっている。

■生産が過去最高見込み

アブラヤシから生産されるパーム油は、食用油として用いられる他、マーガリンやバイオ燃料、日本でも発電燃料など用途が幅広く世界で最も消費されている植物油である。

主要生産国はインドネシア(生産シェア58.0%、米農務省資料より2020-2021年の見込み)とマレーシア(26.3%)で、合計の世界生産シェアは84.3%となり、両国の生産動向がパーム油の供給を決めているといっても過言ではない。

※

しかしこの2国を比較すると圧倒的にインドネシアの生産量の増加が顕著である。インドネシアのパーム油生産が転機を迎え増加基調が鮮明になったのは、米国の強いドル政策を背景に始まったアジア通貨危機(1997年)の影響でインドネシア経済が大きな打撃を受けた、1990年代後半からである。アジア通貨危機はインドネシア経済にも大きな影響を与え、インドネシア政府は1998年1月に輸出主導型の経済成長を目指し、17世紀のオランダ植民地時代からインドネシア経済の主要部門であるプランテーション分野を強化する形でパーム油農園開発の外資参入を緩和、1999年2月には完全に撤廃した。これを契機に生産増加が始まるが、その間、原油生産量の減少でインドネシアがOPECから脱退、環境面から国際的に石炭を回避する動きが強まったことで、代替エネルギーとしてのパーム油への関心が高まったことも生産増加に拍車をかけた。但し、プランテーション開発のためにジャングルを切り開き、深刻な環境破壊をもたらしているとの指摘もあり、今後同じペースで開発が進むかどうかは不透明である。

しかし、米農務省の見通しでは、2020-2021年の世界のパーム油生産は増産基調を維持し、前年比+222万7,000トンとなる7,499万8,000トンと過去最高が見込まれている。生産の増加はその大半がインドネシア(+100万トン)、マレーシア(+70万トン)の増産によるものだ。

■世界在庫は取り崩されている

消費は生産量トップのインドネシアのシェアが大きく(20.4%)、インド(12.9%)、EU(8.9%)となっている。2020-2021年の国内消費は前年比+302万1,000トンの7,285万8,000トンが予想されており、輸出需要の5,051万9,000トンを加えると総需要は1億2,377万7,000トンとなる見込みである。期初在庫の水準が高いため供給不足は見込まれていない。しかし、期末在庫水準を需要で割った在庫率は13.8%と、1997-1998年に付けた10.9%以来の低水準になると見込まれており、2017-2018年から継続的に世界在庫は取り崩されていることになる。

■マレーシアの在庫水準も低下

マクロ感はこのように緩和状態が続く中でも需給がタイト化方向にあり、パーム油価格には緩やかな上昇圧力が掛かることになる。しかし、短期的な値動きはミクロな需給環境に左右されやすく、指標となるマレーシアのパーム油価格は、インドネシアの需給動向よりもマレーシアの在庫水準の説明力が高い。

マレーシアのパーム油在庫は年初からの新型コロナの影響による需要の減少を受けて増加していたが、7月に同じ時期の過去最低水準である93万7,790トンを下回る、86万9,000トンとなった。インド・パキスタン問題を背景に輸出が停止していたインド向けの輸出が5月以降再開していること、マレーシア政府が輸出促進のため関税を引き下げたことが影響している。また、豚熱(豚コレラ)の影響で飼料向け需要が減少、供給減少によって大豆油価格が上昇していた中国も、大豆油輸入の増加に加えて、割安なパーム油の輸入を増加させていること、といった需要面の環境が変化したことが影響したとみられる。

※パーム油

今後については、中国・インド向けの輸出が堅調に推移するとみられること、9月の増産時期までは時間があることから8月もマレーシアのパーム油在庫の水準が低下する可能性は高く、上昇余地を探る動きになると予想される。しかしながら、9月以降は増産時期に入ること、米国の実質金利緩和政策やユーロの財政統合期待を背景とするユーロ高・ドル安圧力の強まり、コロナウイルスの感染が比較的制御されていることによるマレーシア・リンギ高が続く見通しであることが輸入に一定の歯止めをかけることから、数ヵ月にわたる上昇にはならないと予想される。また、秋から冬にかけて再びコロナウイルスの感染が拡大する可能性もあり、秋冬に向けて徐々に水準を切り下げる展開になるのではないか。


(※)参考文献
賴 俊輔「インドネシアにおけるアグリビジネス改革パーム油バリュー・チェーンの分析から」
明石 光一郎「インドネシアのパーム油の生産と輸出動向」
林田 秀樹「パーム油生産の急増とその需要側要因について-1990 年代末以降に焦点を当てて」

新村 直弘(にいむら なおひろ)氏
東京大学工学部精密機械工学科卒。日本興業銀行入行、バークレイズ・キャピタル証券、ドイツ証券を経て2010年5月に企業向け価格リスク制御のアドバイスを専業とする株式会社マーケット・リスク・アドバイザリーを設立。テレビ東京やNHK、日経CNBC等でコメンテーターを務める。また日経新聞や週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済等のメディアにも多数寄稿。著書に「調達・購買・財務担当者のための原材料の市場分析入門」、「天候デリバティブのすべて」「コモディティデリバティブのすべて」がある。

著者名

マーケット・リスク・アドバイザリー 代表取締役 新村直弘

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