価格が低迷していたマレーシアのパーム油だが、ここにきて急速に価格水準を切り上げている。弊社がウォッチしている商品の中では、コロナの影響で生産調整が行われた木材や気温上昇による天然ガス、投機的に積極的に物色された銀に次ぐ前期比上昇となっている。
■生産が過去最高見込み
アブラヤシから生産されるパーム油は、食用油として用いられる他、マーガリンやバイオ燃料、日本でも発電燃料など用途が幅広く世界で最も消費されている植物油である。
主要生産国はインドネシア(生産シェア58.0%、米農務省資料より2020-2021年の見込み)とマレーシア(26.3%)で、合計の世界生産シェアは84.3%となり、両国の生産動向がパーム油の供給を決めているといっても過言ではない。
しかし、米農務省の見通しでは、2020-2021年の世界のパーム油生産は増産基調を維持し、前年比+222万7,000トンとなる7,499万8,000トンと過去最高が見込まれている。生産の増加はその大半がインドネシア(+100万トン)、マレーシア(+70万トン)の増産によるものだ。
■世界在庫は取り崩されている
消費は生産量トップのインドネシアのシェアが大きく(20.4%)、インド(12.9%)、EU(8.9%)となっている。2020-2021年の国内消費は前年比+302万1,000トンの7,285万8,000トンが予想されており、輸出需要の5,051万9,000トンを加えると総需要は1億2,377万7,000トンとなる見込みである。期初在庫の水準が高いため供給不足は見込まれていない。しかし、期末在庫水準を需要で割った在庫率は13.8%と、1997-1998年に付けた10.9%以来の低水準になると見込まれており、2017-2018年から継続的に世界在庫は取り崩されていることになる。
■マレーシアの在庫水準も低下
マクロ感はこのように緩和状態が続く中でも需給がタイト化方向にあり、パーム油価格には緩やかな上昇圧力が掛かることになる。しかし、短期的な値動きはミクロな需給環境に左右されやすく、指標となるマレーシアのパーム油価格は、インドネシアの需給動向よりもマレーシアの在庫水準の説明力が高い。
マレーシアのパーム油在庫は年初からの新型コロナの影響による需要の減少を受けて増加していたが、7月に同じ時期の過去最低水準である93万7,790トンを下回る、86万9,000トンとなった。インド・パキスタン問題を背景に輸出が停止していたインド向けの輸出が5月以降再開していること、マレーシア政府が輸出促進のため関税を引き下げたことが影響している。また、豚熱(豚コレラ)の影響で飼料向け需要が減少、供給減少によって大豆油価格が上昇していた中国も、大豆油輸入の増加に加えて、割安なパーム油の輸入を増加させていること、といった需要面の環境が変化したことが影響したとみられる。
(※)参考文献
賴 俊輔「インドネシアにおけるアグリビジネス改革パーム油バリュー・チェーンの分析から」
明石 光一郎「インドネシアのパーム油の生産と輸出動向」
林田 秀樹「パーム油生産の急増とその需要側要因について-1990 年代末以降に焦点を当てて」