米ロサンゼルス市では新型コロナウイルスの流行で外出自粛措置が出た翌日から、雨が一度も降っていない。筆者の記憶では、ロサンゼルスで前回雨が降ったのは3月中旬だ。東京に住む知人、雨が多いロンドンやブリュッセルの友人に話すと驚かれる。
「雨は降らないけれど、暑すぎるのではないか」。日本のテレビが米西海岸の熱波を伝えたことを受けて友人が聞いてきた。郊外のウッドランドヒルズでは摂氏50度近い高温を記録した。ただ、海に近いロサンゼルスの我が家では、この夏に冷房をつけたのは2度しかない。コロナ感染予防もかねて窓を全開にすると涼風が入って心地よい。「快適だ」と友人にラインを返した。その直後、市当局から窓を閉めるように求めるメッセージが入った。
外出も極力控えるよう奨励された。コロナ感染の増加ペースが鈍化したことを受けて外出自粛措置が緩和されたばかりだ。運動のため外に出ると、ウォーキングする人は目立って少なく、公園から子供の姿が消えていた。すれ違ったウォーキング中の男性からは「別のマスクが必要になった」と笑いながら言われた。焦げ臭く、空気が汚れている。快晴のはずなのに空がどんよりし、太陽は日中でもオレンジ色で不気味だ。
カリフォルニア州で山火事が深刻化している。煙が都市部に流れ込みロサンゼルス市の空を汚染した。サンフランシスコ市は街全体がオレンジ色に染まった。地元の新聞の紙面には「黙示録」という単語があふれ、ソーシャル・メディア上では「火星にいるようだ」とコメントがついた動画が拡散した。カリフォルニアの秋は山火事が自然発生することで知られているが、今年のスケールは次元が違う。
カリフォルニアの北に位置するオレゴン州、さらに北のワシントン州の山火事も深刻だ。13歳の少年が車中で犬に寄り添って焼死した痛ましいニュースもあった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、週末に米西海岸で確認された山火事は100カ所近い。13日時点で少なくとも33人が死亡。過去の山火事で最も危険で悲惨な山火事で、被害がさらに広がる見通しだと報じた。
モンタナ州を拠点にするニューヨーク・タイムズ紙の記者は、自然災害が東海岸で起きていれば、もっと注目されていたとコメントした。米国を代表する主要紙の編集局のほとんどが東海岸にあり、首都ワシントンも東海岸に位置している。西海岸の山火事のニュースがトップになり、政治問題に浮上したのは週末になってからだった。
民主党の支持者が多く、知事や市長を民主党が占める西海岸の山火事について、トランプ大統領は沈黙を保っていた。しかし、米国の新たな危機を軽視しているとの批判が高まり、11日にようやく消防士の苦労を労うツイートをした。カリフォルニア州を訪問したのは14日だ。
新型コロナウイルスに絡む健康危機、経済危機、人種差別で揺れる社会の危機。異例の環境下で選挙が実施される。約1カ月半後に迫った米大統領選の争点に環境という新たな危機が加わった。気候変動は「フェイクニュース」と主張してきたトランプ氏の危機管理能力が問われている。地球温暖化問題で特徴を打ち出す機会を逸した民主党のバイデン大統領候補も、山火事に関する発言が注目される。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信