【日経QUICKニュース(NQN) 池田 幹】コロナ禍による新常態に適応するため、実店舗中心から電子商取引(EC)強化へと軸足を移した一部の小売業の株価が上昇している。EC企業とは見なされていない銘柄もあるが、企業はコロナ禍後にどのように事業機会をとらえていくか腐心しており、EC分野は特に有望だ。市場で十分に知れ渡っていない「隠れEC銘柄」の現状を探った。
■既存店ではなく全社売上
カジュアル衣料専門店のコックス(9876)。株式市場で8月、買いが集中する場面があった。7月の売上高は既存店ベースで10%減なのに対し、全社ベースで44%増えたと発表。思わぬ全社売上高の伸びに、発表翌営業日(8月6日)の株価は一時33%上げた。
※コックスの全社売上高
背景にあったのはECを活用した企業努力だ。同社の全社ベースは既存店ベースにないEC分が含まれる。主力の衣料品ではEC上のオンライン試着機能を導入。購入済みの手持ちの服とサイズなどを比較でき、「サイズが合わない」といったECの衣料品購入で抱えがちな顧客の不満の軽減につなげた。そのほか、「コロナ禍でも需要のあるテントといったアウトドア商品や接触冷感マスクなど、EC向け品ぞろえを充実させた」(総合企画室)。8月の売上高は移動自粛の影響で既存店ベースだと18%減ったものの、全社では1%増を確保した。
■グルメ・ワイン・・・
通信販売を手掛けるベルーナ(9997)は8月の店舗販売の売り上げが前年同月比20%減と大きく落ち込む一方、総合通販事業は同57%増えた。株価は8月下旬に約1年8カ月ぶりの高値を付け、足元では昨年末比で31%高い。通販ではグルメ・ワインや家具・雑貨といったコロナ禍の巣ごもり消費の恩恵を受ける分野の品ぞろえを増やした。また同社は看護師向け通販を積極的に展開しており、「マスクや消毒液といった、看護師など特定の顧客層向けた販売に力を入れて集客増に努めた」(経営企画室)という。
※ベルーナの月次動向
■化粧品ではファンケル好調
化粧品業界でも、ECや通信販売が好調な銘柄の株価は堅調だ。ファンケル(4921)は2020年4~6月期の店舗販売が前年同期比66%減と落ち込んだが、通信販売が25%増と好調だった。株価は9月上旬に株式分割を考慮した実質で約21年ぶりの高値を付けた。足元でも昨年末と比べ12%高く推移している。新日本製薬(4931)も19年10月~20年6月期の国内外のEC売上高は同23%増え(店舗は1%減)、株価は8月下旬に昨年末比で2倍となった。
米アマゾン・ドット・コム(AMZN)や米ウォルマート(WMT)の成功をみるまでもなく、コロナ禍の新常態では巣ごもりなど新たな需要にどれだけ対応できるかが生命線だ。
■カギはオムニチャネル
岩井コスモ証券の有沢正一投資調査部部長はネットと実店舗をつなぐ「オムニチャネル」に触れ、「対面販売で培ってきた接客や販売ノウハウをEC上でも提供し顧客との接点を維持できれば、商品購入につながり再評価される余地はある」とみている。
EC購入品の店舗受け取りや返品などが可能なオムニチャネル導入に向けて準備しているのが、「グローバルワーク」などの店舗を手掛けるアダストリア(2685)は「自社のECサイトでスタイリングを投稿するスタッフの数を増やし、店舗とEC双方で顧客の個別ニーズに対応している」(広報IR室)。実店舗で得られた新規顧客について、EC販売も併せて利用を促すことでリピーター確保につなげたい考えだ。足元の株価は昨年末比で見ると36%安だが、4月に付けた年初来安値からは42%上昇。隠れEC強化銘柄として市場の注目が集まり始めている。
コロナをきっかけに進む「新常態」。競争に打ち勝つ隠れ銘柄を選別する動きは活発になりそうだ。
※隠れEC関連銘柄の株価(2019年末を100に指数化)