9月25日の東京株式市場で西武ホールディングス(9024)が急落した。一時、前日比148円(11.6%)安の1130円まで下落し、8月28日以来およそ1カ月ぶりの安値を付けた。同社は24日、2021年3月期の連結最終損益が630億円の赤字(前期は46億円の黒字)になりそうだと発表した。赤字幅は過去最大で、さらに前期は30円だった年間配当も無配とした。西武HD株は旅行関連株の一角として、国内旅行の需要喚起策の「Go To トラベル」事業を巡る思惑で7月末ごろから値を戻しつつあったが、コロナ禍で蒸発した「インバウンド需要」の重みが改めて意識されている。

■落ち込みが大きいホテル・レジャー事業
予想最終赤字額は市場予想平均であるQUICKコンセンサスの213億円(14日時点、6社)より大きかった。今期の業績見通しで特に落ち込みが大きいのはホテル・レジャー事業だ。コロナの感染拡大に伴う旅行やスポーツ、ビジネス需要の落ち込みで、同事業は前期比6割の減収、営業損益は552億円の赤字(前期は85億円の黒字)となる見通しだ。「プリンス」ブランドを有するホテルを中心に西武HDのホテル・レジャー事業は20年3月期時点で連結売上高の4割を占め、全体の業績に与える影響は大きい。
通期の客室稼働率は24%(前期は71.9%)に低下する見込み。10月からは東京都が発着地となる旅行が「GoTo」事業の対象となる予定だが、会社側は下期の稼働率は30~40%程度にとどまると予想。ホテル業界で収益力を計る指標として使うRevPAR(1室当たりの売上高)は前期比66.1%減の3940円に落ち込む見込み。モルガン・スタンレーMUFG証券の担当アナリストの尾坂拓也氏は「保守的な印象だが、ホテル事業の業績悪化リスクは想定以上に厳しいようだ」と指摘する。
■インバウンド需要の回復は?
ホテル事業の重荷となるのが、インバウンド需要の蒸発だ。コロナ前の西武HDのホテル事業では、外国人客が宿泊客数の約3割、室料収入の約4割を占めていた。そこに新型コロナウイルスの感染拡大が直撃し、20年4~6月時点では外国人宿泊者数が前年同期比99.9%減少した。宿泊者数全体に占める割合は0.6%まで落ち込んだが、それでも室料収入の5.8%を占め、業績への影響の大きさがうかがえる。
無配転落は会社側が来期(22年3月期)も厳しい環境が続くとみていることを示している。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、訪日観光客数は4月以降、前年同月比99%減の状況が続いている。政府は10月にも、全世界からの新規入国の受け入れを一部再開する方向で調整に入っているが、足元では欧州などでコロナの感染再拡大への警戒が高まっている。イギリスやフランスでは政府が再び行動制限に動きつつあり、インバウンド需要が短期で元の水準に回復することは期待しがたい。野村証券の担当アナリストの福島大輔氏は「ホテル・レジャー事業は来期も赤字が続く」とみている。
■「悪くない買い場となり得る」
もっとも、市場では「年単位での保有を考える投資家にとっては、今の株価水準は悪くない買い場となり得る」(ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役)との声もある。菊池氏は「ホテル事業は外部環境が厳しいものの、競争力には一定の評価がある」と指摘。また、西武HDが手掛ける東京北西部と埼玉県を結ぶ鉄道事業については「地域住民には不可欠な生活密着型の路線であり、ビデオ会議などの浸透でビジネス客の落ち込みを2度と取り戻せない可能性のあるJR各社の新幹線事業に比べ、中長期的な目線では安定性に比較的期待が持てる」(菊池氏)という。
西武HD自身も対応を急ぐ。今期は固定費を当初計画に対して620億円、設備投資を同360億円それぞれ削減するほか、賃貸ビルやホテルなどは採算性を見直し、一部は売却を検討する。財務改善のために株式を希薄化しない資本性資金の調達も検討するとしている。
同社は金融機関と交渉して一部借入金の財務制限条項を「純資産2800億円以上」に引き下げたものの、赤字決算によって今期末の純資産は3010億円に減る見通し。資本増強の必要性が増していたが、エクイティファイナンス(株式発行を伴う資金調達)の懸念はいったん後退した。
ただ、今日の終値は10.6%安と安値からはそれほど戻らなかった。実際の資産売却やファイナンスなどを通じた財務改善と業績回復の明示が、投資家の安心感を取り戻す最善策だろう。〔日経QUICKニュース(NQN)寺沢維洋〕
<金融用語>
エクイティファイナンスとは
新株発行、CB(転換社債型新株予約権付社債)など新株予約権付社債の発行のように、エクイティ(株主資本)の増加をもたらす資金調達のこと。発行会社から見ると、原則として返済期限の定めない資金調達であり、財務体質を強固にする効果がある。 一方で、投資家から見ると、調達した資金が中期的な利益の拡大に貢献する投資に充当されない場合、一株当たりの株式価値が薄まることとなるため、通常、エクイティファイナンスを実施する場合は、株主に対する合理的な説明が必要になる。 これに対して、銀行借入・普通社債などのように他人資本が増加し、返済期限の定められた資金調達のことをデットファイナンスという。