【QUICK Market Eyes 本吉亮】情報通信サービス市場は、コロナ禍でも人手不足や働き方改革の影響からデジタルトランスフォーメーション(DX)による業務効率化を推進する企業が増加しており、IT投資への意欲が旺盛のようだ。その中でも、中小企業向けのクラウドサービスを手がけるラクス(3923)は主力の交通費・経費精算システム「楽楽精算」の好調で業績拡大を続けており注目してみたい。
■「楽楽精算」売上高、4割増続く
「楽楽精算」は、交通費・旅費・経費などの「申請・承認・精算・仕訳」をクラウド方式で提供するシステム。申請に使用したデータをそのまま流用して精算することが可能で、書類の作成・押印の手間を省くことができる。また、仕訳データや振込データの自動作成機能により、経理部門の仕訳登録作業および振込登録作業の軽減が可能となっている。さらに、領収書をスマホカメラで読み取るだけで経費精算できる利便性や、月額3万円からという手ごろさを生かして導入企業を広げている。
「楽楽精算」の主要顧客は従業員数50~1000名の全業種で、累計導入社数は2020年6月末時点で6366社(3月末比+280社)に増加。新型コロナウイルスの影響で商談が一時的に停滞し、四半期の新規導入社数が前年割れする場面もあったが、6月以降は順調に回復している。「楽楽精算」の月次売上高は4月が年同月比46.1%増、5月は39.1%増、6月は43.7%増、7月が36.1%増、8月43.3%増はと4割程度の高い伸びが続いている。
■大幅増益見込み
8月中旬に発表した2020年4~6月期(1Q)連結決算は、売上高が前年同期比33.5%増の34億5900万円、営業利益は78.5%増の9億900万円と大幅増収増益で着地。新型コロナの影響で商談停滞や遅れが発生したものの、前期までの積極的な成長投資の効果により「楽楽精算」の顧客数が前年同期比で大幅に増加したことが寄与した。期初時点で未定だった21年3月期連結業績予想は、売上高が前年同期比26.4%増の146億円、営業利益は2.8倍の32億9000万円と大幅増益を見込んでいる。
「楽楽精算」のターゲットである従業員数50~1000名の企業は、日本国内の中小企業約400万社のうち10万社で、そのうち紙やExcelで経費精算をしているのは約6割もあるという。非効率な方法で経費精算をしている企業の比率は依然として高く、経費精算システムの導入余地は大きい。ラクスは6月時点で6366社と契約しているが、最低限でも2万社の獲得を目指しており、しばらく成長が続く公算が大きいだろう。なお、9月末に1対の2の株式分割を実施し、9月29日は分割権利落ちとなる。最低取得単価の下落による流動性の向上が株価上昇の追い風になりそうだ。
<金融用語>
権利落ちとは
ここでいう権利落ちの権利とは、株式分割・増資等新株を取得する権利のことをいう。権利落ちとは、権利確定日が過ぎて、この権利を取得できなくなった状態のこと。なお、ここでいう権利に配当を含めることもあり、「新株落ち」、「配当落ち」と区別するケースもある。 たとえば、1株から1.5株への株式分割の場合、権利付きの最終株価が900円とすると、権利落ち後の理論株価は、算出式にあてはめると、(900円+0円×0.5)÷(1株+0.5株)=600円となる。 つまり、実際の権利落ち後の株価が理論株価通りの600円であれば、実質的な株価変動はなかったことになる。日経平均等の株価指数は、このような権利落ちに伴う株価下落分を修正して、毎日の指数に継続性を持たせている。