【QUICK Market Eyes 川口究】国内外で都市から地方・郊外へと移り住む流れが顕著となり、住宅REITに投資資金が流入している。新型コロナウイルスの感染拡大が生活や働き方に新常態をもたらしたことで、投資マネーの動きにも変化がみられる。東京一極集中の流れを是正すると表明する菅政権の政策からもこの流れは今後加速していきそうだ。
■住宅REITが東証REIT指数をアウトパフォーム
住宅市場が堅調だ。新型コロナの感染拡大で外出控えが長く続き、以前当たり前だったオフィスワークから在宅で仕事することが定着しつつある。こうした環境の変化を受けて、年初来の住宅REITが東証REIT指数に対しておよそ13ポイントアウトパフォームする一方で、オフィスREITが7ポイントほどアンダーパフォームしておりオフィス離れへの懸念が如実に表れた。
また、積水ハウス(1928)など住宅メーカー株をバスケット化した指数はTOPIXを上回り、足元でプラス圏で推移するが、大林組(1802)など総合建設株をバスケット化した指数のリターンはマイナス圏で推移している。都心離れを織り込み始めているようにもみえる。
■都心部から郊外へ
国土交通省が9月29日に発表した2020年の基準地価(7月1日時点)は、全国の全用途平均で3年ぶりに下落した。新型コロナウイルスの影響を織り込んだ最初の大規模な地価調査となった。野村証券は同日付のリポートで、「地価の変動率を見ると、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の住宅地価が7~8年ぶりにれぞれ前年比1%未満の下落に転じた」と指摘。一方、東京圏、大阪圏の商業地価は今回の基準地価の調査地点と、国土交通省が1月1日時点を基準日として発表する公示地価で共通する調査地点を比べると、今年に入ってから下落へ転じていた。
総務省が29日に発表した住民基本台帳人口移動報告によると、8月の東京都の転出者数は3万2038人となり前年同月比16.7%増えた。モルガン・スタンレーMUFG証券の同日付リポートによれば、7月と8月の月次データは、東京都の転出者数が47都道府県で最も多く、7月は2522名、8月は4514名の転出になったという。これは07年4月以降の月次データでは、8月の転出者数は最大規模であり、東日本震災が発生した当時を上回る規模だった。転入者数が増加基調なのは、北海道、沖縄県、九州エリア、大阪府などで、こうした状況についてレポートで「新型コロナの感染拡大を受け、感染リスクのない東京を避け地方へ移住、テレワークの進展、単身赴任制度の見直しなどが、背景にある」との見方を示した。
東京からの人口転出は東京都に立地するオフィス、住宅などの需要減に繋がるため、東京からの人口転出が続く場合は関連銘柄の先行き不透明感が意識されやすくなるといえそうだ。
■米国でも「これまでとは異なる住宅需要」
米国では都心部を敬遠する動きが顕著に表れている。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、7 月に ニューヨーク 郊外の住宅販売は前年同月比 44%増加した一方、マンハッタンの住宅販売は前年同月比 56%減少した。大和証券は9月30日付リポートで、新築住宅の在庫を販売戸数で除した在庫回転数から確認される販売ペースや在庫に対する回転期間は「過去のトレンドからは大きく外れたものとなっている。つまり、そこにはこれまでとは異なる住宅需要が存在していると考えられるが、それがコロナを避けるための、都心から郊外への転居需要であると言えよう」と指摘した。
日本でも都心部から郊外への人の流れが加速する可能性がある。菅義偉首相は東京一極集中の流れを是正することを表明しており、政府は2021年度から、テレワークで東京の仕事を続けつつ地方に移住した人に最大100万円を交付する。地方でIT関連の事業を立ち上げた場合は最大300万円を交付するという。新型コロナの感染拡大による働き方の変化を踏まえ、地方の活性化につなげる。都心一極集中の是正の気運は高まりつつある。
<金融用語>
REITとは
平成12年11月に施行された改正投資信託法により、従来「主として有価証券」しか運用対象とできなかった投資信託が、不動産等それ以外の資産にも投資できるようになった。不動産を運用対象とするものを不動産投資信託という。 米国で既にReal Estate Investment Trust(REIT、不動産投資信託)という類似した制度が普及していることから、それに対して日本版REIT、J-REITという通称で呼ばれている。なお、改正投資信託法の中では、投資法人と呼ばれる会社型と投資信託と呼ばれる契約型の2種類が存在するが、現在、金融商品取引所に上場している不動産投資信託は、すべて投資法人であり、不動産投資法人という。 仕組みは、投資家から広く募集した投資資金により、賃貸オフィスビルや賃貸マンションなど、安定した収益を生んでいる不動産を取得し、その賃貸収入や売却により生じた収益から不動産の維持・管理費用や支払い金利を差し引いた残りの利益を投資家に分配する、というもの。 不動産投資法人は、配当可能利益の90%以上を支払配当として分配すれば、分配金は課税されないというメリットがあり、不動産投資によって得た収益を大部分投資家に分配することが可能となる。したがって、株式と比較すると相対的に高い配当利回りが期待できるが、配当原資である賃貸収入や不動産売却益は、不動産市況・経済環境などに大きく影響されるため、注意が必要。