【日経QUICKニュース(NQN)宮尾克弥】ビックカメラ(3048)は10月6日、2020年8月期の連結純利益が前の期比61%減の55億円になったようだと発表した。従来計画(87%減の18億円)から減益幅が縮小し、市場予想平均のQUICKコンセンサス(1日時点、38億円、4社)も上回った。好材料のはずだが7日の市場の反応は揺れた。先行きに懐疑的な投資家が少なくないようで、本格的な業績回復は先になるとの見方もある。
■揺れたビックカメラ株
7日のビックカメラの株価は大きく揺れた。取引開始直後には前日比4%高まで買われたが、その十数分後には2%安まで売られた。終値は0.4%高の1208円だ。上ひげと下ひげの長さは、今回の材料に対する市場の見方がすぐには定まらなかったことを意味する。
上方修正の大きな理由は、新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの普及でパソコン関連商品が伸びたためだ。家電の巣ごもり需要を政府からの特別定額給付金が後押しした。約50%を出資する傘下のコジマ(7513)は6日、20年8月期の連結業績予想を引き上げている。
ところが同じ上方修正にも関わらず、市場の反応は分かれた。下げる場面のあったビックカメラ株に対し、コジマは7%高まで上昇した。国内証券の投資情報担当者は「コジマは前期配当の上積みも発表しており、この差が出た面もあるが、より大きいのは今後の業績に対する期待感だ」とみる。
■厳しい業績
上方修正はしたがコロナ禍におけるビックカメラの業績は厳しい。コジマが前の期の水準近くまで利益が回復したのに対し、ビックカメラはまだ半分にも及ばない。ビックカメラ単独の月次売上高(全店ベース)は3~5月期が前年同期比29.8%減。緊急事態宣言の解除により6~8月期は10.1%減まで改善したが、本格回復とはいいがたい。
ここにコジマの売上高を加えると状況は変わる。3~5月期は17.6%減まで減少幅が縮み、6~8月期は2.2%増に転じる。実際、ビックカメラの前期純利益の上方修正額は37億円で、コジマは42億円。出資比率を考えれば、今回のビックカメラの修正分の多くはコジマの業績改善で説明できる。
■ビックカメラとコジマの違い
この差は出店場所の違いが影響しているようだ。都心部中心のビックカメラに対しコジマは郊外店中心だ。いわゆる「3密」を避けやすく自動車で行きやすい郊外店が消費者に選好された。この点はビックカメラも「テレワーク普及で在宅勤務が増えたことや都心部に出かける人自体が少なく、コジマとの差になっている」(IR担当)と認める。
加えて都心部を中心とする家電量販店はこれまで、インバウンド(訪日外国人)の恩恵を受けていた。ビックカメラによると、19年8月期のインバウンド関連売上高は約550億円。一方、郊外店はもともと国内客が中心で、インバウンド需要減少による影響は小さい。コロナ前はインバウンド比率の小さい郊外店中心の家電量販店は業績が伸び悩んでいたが、風景は変わった。
投資家もこうした動きに反応する。郊外店中心のノジマ(7419)やコジマの株価が年初からプラスとなっている一方、ビックカメラや近年都心部に進出しているヤマダホールディングス(9831)の株価はさえない。楽天証券経済研究所の窪田真之氏は「鉄道ではなく自家用車で行ける店舗を中心とする業態が堅調なのは、小売業界全体に見られる傾向だ」と話す。
ただ、窪田氏は「郊外店の優位が今後も続くかは別問題」とも指摘する。コロナが収束すれば都心部に再び人が集まり、訪日客需要も復活する可能性は高い。7日のビックカメラ株は2%安まで下げた後は切り返した。回復に期待する投資家は少なくない。電子商取引(EC)の強化など取れる戦略はまだ多く、我慢の時期をどう乗り越えるか、今後の動向に注目だ。