【NQNニューヨーク=古江敦子】半導体大手の米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)が米国時間27日朝、同業のザイリンクスを350億ドルで買収すると発表した。成長分野であるデータセンター事業を強化し、インテルやエヌビディアなど競合に攻勢をかける。市場では長期の成長を促すとの期待がある一方、相乗効果の不透明感を指摘する声もある。
「ザイリンクスと当社は理想的な組み合わせだ」。AMDのリサ・スー最高経営責任者(CEO)は発表後の説明会でそう述べた。AMDの主力はパソコンやデータセンターで広く使われる汎用性に富むCPU(中央演算処理装置)。回路線幅を7ナノ(ナノは10億分の1)メートルに縮めた最先端品を業界に先駆けて投入し、市場シェアの拡大が続くが、人工知能(AI)などに特化した半導体開発では遅れているとされる。
■相乗効果に疑問
ザイリンクスは回路を自由に書き換えられ、特定の用途向けに性能を高める「FPGA」と呼ばれる半導体の技術を持つ。AIを効率よく稼働させるためにCPUよりFPGAを使う流れが強まっており、AMDはザイリンクスを取り込んで一段のシェア拡大につなげる。
買収額は350億ドル。すべて株式交換で行い、手続きは来年末に完了する見込みだ。AMDによると、同社の事業が対象とする「実現可能な最大の市場規模(TAM)」は現在の800億ドルから1100億ドルに拡大するという。1年半後に年3億ドルのコスト削減を見込み、売上高総利益率は現在の44%から51%に高める。
カウエンのマシュー・ラムゼイ氏は「成長をつなぐうえで最善の選択だが、短期的に収益を押し下げる可能性がある」とみる。「目先の事業統合に手間取り、順調だった新製品の発売ペースに支障をきたす可能性もある」という。ウェドブッシュ証券のマット・ブライソン氏は「買収の相乗効果には不透明感がある」と指摘する。インテルは2015年にザイリンクスと同じFPGAを開発するアルテラを買収したが、収益押し上げにつながらなかった。
■純利益3倍
AMDの足元の業績は好調が続く。27日発表した2020年7~9月期決算は売上高が前年同期比56%増の28億100万ドルと、QUICK・ファクトセットがまとめた市場予想(25億6000万ドル)を上回った。ゲーム機向けやデータセンター向けを含む部門が2.2倍となった。純利益は3億9000万ドルと3.3倍に膨らんだ。10~12月期の売上高は41%増を見込む。
27日の米株式市場でAMDは前日比4.1%安の78.88ドルで終えた。ザイリンクス買収が事前に報道されたのは10月8日。報道前の同社の時価総額は259億ドルで、今回は買収総額はそれを35%上回る。買収価格が割高とみた売りに加え、AMD株は年初来で26日までに8割上昇しており、決算や買収発表を受けた材料出尽くしの売りも出やすかった。ザイリンクスを傘下に収め、AIの分野でもシェア拡大が勢いづくとの見方が広がれば買いは戻るだろう。