【日経QUICKニュース(NQN)松下隆介】金融・資本市場で運用リスクをとる動きが急速に広がった。11月4日は日経平均株価の上げ幅が一時500円を超えた。3日の米市場では、米大統領選に加え、同時に実施される上下院選でも民主党が勝利する「ブルーウエーブ」への期待が高まった。ただ、選挙結果の行方はまだ不透明。開票が進む4日は、激戦州でのトランプ氏優勢が伝わるとドル高や米金利低下が目立つ場面があった。足元で広がる楽観論には警戒も必要だ。
■「出口調査の結果は当てにならない」
「いまの『リスクオン』は奇妙」。カナダのスコシアバンクのチーフ外為ストラテジスト、ショーン・オズボーン氏はこう指摘する。3~4日にかけて、世界の株式相場は大きく上昇した。「ブルーウエーブ」で大規模な財政政策が打ち出される、との期待が高まったためという。ただ、オズボーン氏はこうした動きに首をかしげる。「選挙結果が非常に不透明」なためだ。
大統領選は日本時間の4日午前に投票がおおむね締め切られ、足元では出口調査の結果などが相次ぎ伝わっている。だが、米バンク・オブ・アメリカによると「投票日の出口調査の結果は当てにならない」という。共和党のジョージ・ブッシュ氏と民主党のジョン・ケリー氏が争った04年の大統領選では、出口調査でケリー氏の勝利を伝えていた。16年は民主党のヒラリー・クリントン氏が優勢との見方だった。
白人大卒者の投票数を過大評価するなど、出口調査の手法に問題があったという。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大で期日前投票が膨らむなど例年とは異なる事情もある。同社は「出口調査に基づく選挙結果の推定には不確実性が高いというのが現実」と指摘する。各州での開票ルールの違いなども注意すべきだとしている。
■「ねじれ議会」の場合は?
上院選の結果に気をもむ市場関係者も多い。上院は定数100のうち共和党の23議席、民主党の12席の計35議席が改選の対象だ。民主党は16議席を確保すれば過半数を確保できるが、民主党の敗退が見込まれる州もあるなど激戦が必至。議席数の差がわずかにとどまるとの予想もあり、どちらが過半数を確保しても不思議ではない。
市場がリスクとして意識するのは、バイデン氏が大統領選で勝利する一方、改選前と同様に上院で共和党が過半数を占める場合だ。下院は民主党の過半数獲得が見込まれるため「ねじれ議会」となる。米ユーラシア・グループは、ねじれ議会時のシナリオとして「ブルーウエーブ」で最大5兆ドルほどが見込まれる財政政策の規模が小さくなると見込む。
大規模な財政政策を背景とした国債需給の悪化や米景気の回復期待などを背景に、日本時間4日午前の取引で米長期金利が一時0.9%台まで上昇するなど、米金利は上昇基調が続いていた。だが、前提が崩れれば多くの投資家は戦略の修正に迫られる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、ねじれ議会の場合には米長期金利が0.5%前後まで低下する可能性があるとはじく。激戦州でのトランプ氏優勢が伝わると、米時間外取引で米長期金利は一時、急低下した。
りそな銀行の武富龍太氏は「ブルーウエーブと『ねじれ』では、経済などの前提が真逆になる。新型コロナなど、株高がなければそもそも足元は『リスクオフ』の局面だ」と指摘。米金融緩和策の長期化が見込まれる中にあって、リスク回避の動きは円高につながるとして「1ドル=103円を上回る水準で定着する可能性も想定すべきだ」と指摘する。
4日は外国為替市場で急速に円安・ドル高が進む場面があった。「ブルーウエーブ」を前のめりに織り込み、不測の事態へのもろさも印象付けた。「非常に短期的で投機的なトレードを除き、早い段階で結果や予測が出てもポジションを動かすべきでない」。南アフリカのスタンダード・バンクはこう指摘する。選挙結果の確定には、長い時間がかかるとの見方もある。安易な決め打ちは、禁物だ。