【日経QUICKニュース(NQN)矢内純一】エムスリー(2413)株が騰勢を強めている。10月30日に4~9月期決算を発表して以降、5日までで10%高だ。好決算に加え、米大統領選挙の後に米金利が上がらなかったことで、ハイテクグロース株への資金集中が再び活発化し、エムスリー株の追い風になるとの期待も強い。時価総額は村田製作所(6981)などを上回り、市場での存在感を高めている。
■ヘルスケア業界のネット化
5日のエムスリー株は前日に比べ268円(3.5%)高の7863円まで買われ、連日で上場来高値を更新した。時価総額は5兆円台に乗せ、東証1部の20位までのぼりつめた。今や村田製、ファナック(6954)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)も上回り、東証1部の主力銘柄だ。
好業績銘柄という市場の位置づけは不変だ。4~9月期の連結純利益(国際会計基準)は前年同期比50%増の147億円。新型コロナウイルスの感染防止のため、医薬情報担当者(MR)の病院訪問自粛の影響で医療従事者向けの情報サイトの利用が増えている。エース経済研究所の池野智彦シニアアナリストは「ヘルスケア業界のネット化が進み、同社のビジネスチャンスが広がることへの期待が強い」と話す。
■低金利環境継続でハイテク株に追い風
ある国内証券のアナリストは「ここまで急騰していると、利益確定売りにおされてもおかしくないのだが、やはりハイテク株高の流れが追い風になっているのだろう」と話す。大統領選後の4日の米株式市場で、ナスダック総合指数の上昇率が3.85%と、ダウ工業株30種平均(1.33%)を大きく上回った。
「大統領選後の市場の動きで一番驚いたのは、米長期金利が1%に届く前に下がったことだ」。ある国内運用会社のファンドマネージャーはこう語る。同氏は金利が当面上がっていかないと確認できたと指摘。低金利環境の継続で、IT(情報技術)関連のエムスリーにも資金が流入しているとみる。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは大統領選後の4日のコラムで、バイデン氏の苦戦で国債増発懸念が和らいだことなどを踏まえ、「『TINA(There Is No Alternative=他の選択肢はない)』と呼ばれる消去法的なトレードになり、大型ハイテク株に一層有利になるかもしれない」としている。
今期の通期業績見通しを出していないエムスリーの予想PER(株価収益率)を市場予想平均であるQUICKコンセンサスで計算すると、170倍台。株が下がれば「買われ過ぎていたため」といつでも言える水準だが、消去法的なマネー流入が押し上げているとすれば調整リスクは少ないかもしれない。
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。