トヨタ自動車(7203)が11月6日発表した2020年4~9月期の連結決算(国際会計基準)では、足元の利益も21年3月期通期の見通しも市場予想を上回った。決算内容は一見良好に映るが、市場は売りで反応した。コロナ禍での業績の先行きへの警戒感をうかがわせる。
■決算内容は一見良好
市場ではトヨタに対する期待は既に高まっていた。10月31日付の日本経済新聞朝刊は「トヨタは11月から3カ月間(20年11月~21年1月)の世界生産台数を過去最高に引き上げる」と報道。業績期待からトヨタ株は前場を前日比2.3%高で終えていた。しかし12時45分の決算発表を受けて売られ、次第に上げ幅を縮小。一時0.4%高の7015円まで伸び悩んだ。終値は0.5%高の7019円だ。

決算の内容は一見、良好に映る。市場が注目していた21年3月期の会社予想の連結営業利益は、前期比79%減の5000億円としていた従来予想から、46%減の1兆3000億円へと上方修正した。市場予想の平均であるQUICKコンセンサスの1兆2403億円(3日時点、17社)も上回った。グループ総販売台数の見通しは従来の910万台から942万台に引き上げた。豊田章男社長は発表後のオンライン記者会見で「トヨタという企業が少しずつ強くなってきたからだ」と手応えを口にした。

中間配当も前期実績の100円から105円に引き上げた。減収減益とあって減配を見込む声もあっただけに「増配は驚き、ポジティブだ」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本浩一シニアアナリスト)との声もあがった。例年、決算と併せて発表していた自社株買いは大方の予想通り見送った。
■「先行きを弱めに見ている」
この決算発表に市場は売りで反応した。ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役は「中身をよく見ると、先行きを弱めに見ている印象だ」と話す。21年3月期通期の営業利益予想1兆3000億円に対し、4~9月期の実績は5199億円。差し引きで今下期(20年10月~21年3月)は約7800億円稼ぐ計算となるが、7~9月期の営業利益は3カ月間で5060億円だったことを考えると、物足りないとの声もある。
今通期の為替レートの前提を1ドル=106円と従来より1円、円安・ドル高方向に動かしていることもこうした見方に拍車をかける。足元は103円台まで円高・ドル安が進行しており、為替採算面からの先行き不安は残る。
欧米を中心に新型コロナウイルスの感染は再び拡大している。トヨタは今回、欧州での販売台数見通しを6万台引き上げたが、「コロナの影響をどの程度と考えているのか精査する必要がある」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の杉本氏)との声も上がる。市場の期待に応えた好決算にみえたが、懸念を晴らすには至らなかったようだ。〔日経QUICKニュース(NQN) 大沢一将〕
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。