11月10日の東京株式市場で、空運・鉄道株が大幅高となった。新型コロナウイルスを巡り、ワクチン開発や治療薬に関する報道が伝わったことで見直し買いが入った。空運・鉄道株はコロナによる痛手が極めて大きい業種だ。業績立て直しには感染収束による旅客数の回復しか手がないだけに、ワクチン開発に対する期待の高さがうかがえる。今後もワクチンの動向次第で株価の浮沈が続きそうだ。
■「先回りで買ったのは間違いない」
「明らかに一部の機関投資家が銘柄を入れ替える動きに出た」。楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジストは10日の動きについてこう指摘する。ANAホールディングス(9202)は18%高、JR東日本(9020)とJR西日本(9021)はそろって15%強上げた。コロナが収束すれば長距離輸送のJRや航空会社の業績は回復に向かうため「運用成績を気にするファンドマネジャーからすれば株価が上昇してから買っても遅く、フライング気味だが先回りで買ったのは間違いない」という。
米ファイザーなどが開発するコロナワクチンに高い有効性が示され、9日に米市場で航空株が軒並み大幅高となった。10日の東京市場でも引き継がれた。日経平均株価が一時、400円超上げる中、相場全体を引っ張ったのは空運・鉄道株だった。
新型コロナは、この二つの業種を直撃した。ANAホールディングスの4~9月期、旅客数は国際線が前年同期比96%減、国内線は80%減だった。会社側は21年3月末に旅客数がコロナ前に比べ国内線7割、国際線5割に戻るとの前提だが懐疑的な見方は多かった。厳しい目線はJR各社も変わっておらず、いずれも年初来安値圏での推移が続いていた。
■「Go Toトラベル」では力不足感
ワクチンの登場で話は変わる。「感染を気にしなくて済むなら、2022年3月期に旅客数が一気に回復する可能性は高い」(国内証券の投資情報担当者)からだ。
ワクチンが世に出るまでの暫定措置として、政府の観光支援策「Go To トラベル」が投入されてきた。観光庁の宿泊旅行統計によると9月の日本人宿泊者数は前年同月比37.4%減の2534万人と、マイナス幅は8月(51.8%減)より縮小した。10月からは補助対象に東京都発着のツアーや都内居住者が追加されたため回復が加速している可能性は高く、追い風といえる。
だが、あくまで暫定措置であって力不足感は否めない。年初からの下落率はJR、航空株とも依然30~40%近く。29年ぶりの高値圏を歩む日経平均株価とは景色が全く異なる。
さらに「Go Toトラベル」が終了すれば旅客数は再び低迷すると考える投資家が多い。制度の延長論はあるものの、限られた日本人客の財布の取り合いには限界がある。
■ワクチン開発だけでは…
結局、2019年に4.8兆円を国内で消費した訪日外国人客が戻り、国内外の人の往来が活性化しない限りは、本格的な回復にはほど遠い状況は変わらない。引き金となるのはワクチンだが、開発が進んだとはいえ、まだ治験段階の話だ。量産や供給、移送の方法なども議論が進行中で、ワクチンの取り合いが国際的な問題になる可能性も捨てきれない。
ちばぎんアセットマネジメントの奥村義弘シニアアナリストは「鉄道や航空株の業績回復にはコロナの収束は必須で、ワクチン開発の話だけで上昇が継続すると考えるのは疑問」と話す。実際、11日の株価は早くも息切れし、前日の勢いは失われている。ワクチンはあくまで、空運・鉄道株の上昇向けてのツールにすぎず、やはり「コロナの収束」という結果がどう見えてくるかが本格回復のために重要になってくる。
■10日の株価上昇率(前日比、%)
コード | 銘柄名 | 株価上昇率 |
9201 | JAL | 21.2 |
9202 | ANAHD | 18.1 |
9020 | JR東日本 | 15.5 |
9021 | JR西日本 | 15.5 |
9022 | JR東海 | 14.8 |
9142 | JR九州 | 7.4 |
■テーマ株:鉄道
■テーマ株:航空輸送
〔日経QUICKニュース(NQN) 宮尾克弥〕