【日経QUICKニュース(NQN) 大貫瞬治】訪日外国人客数が10月、7カ月ぶりに2万人を超えた。日本政府観光局(JNTO)が18日発表した10月の訪日外国人客数(推計値)は2万7400人。前年同月比で98.9%減と水準は非常に低いが、渡航制限の段階的な緩和もあり、4~6月に3000人を下回っていたのに比べると着実に増えている。新型コロナウイルスのワクチン開発も進んでおり観光産業の復活に期待が集まるが、市場では、訪日外国人客数はそう簡単には増えないと慎重な見方が根強い。
■ビジネス目的の訪日客が増えるか
新型コロナの世界的な感染拡大を受けて訪日外国人客数は3月以降、前年同月比で9割を超える減少が続いている。5月には1663人と、1964年の統計開始以降で最低の水準に落ち込んだ。
だが6月以降は前月比で増加に転じている。法務省によると、6月12日に再入国が可能な事例を公表したところ「再入国に関する問い合わせが殺到した」という。永住者や、配偶者が日本人でない場合でも再入国できると広く認知されたことが要因とみられる。
入国制限の緩和も進む。外務省は6月中旬、ビジネス関係者らの出入国を例外的に認める施策を発表。7月下旬にタイやベトナムからの企業駐在員らの入国を認める手続きを始めて以降、同様の取り組みが進み、対象国は11月1日時点で10カ国まで拡大した。
外務省は、9月には在留資格を持つ外国人の再入国基準を緩和。11月1日には日本在住の日本人と在留資格を持つ人を対象に、ビジネス目的の短期出張(7日以内)から帰国・再入国する際には行動計画の提出などを条件に14日間の待機措置を免除することにした。今後アジアからのビジネス関係者を中心に、訪日外国人客数は少しずつ増加が見込まれる。
■「訪日客の回復動向は緩慢だろう」
足元では新型コロナのワクチン開発も進む。株式市場では米製薬大手ファイザーなどの開発するワクチンが高い有効性を示したことを好感し、JAL(9201)やANAHD(9202)など航空株の買いが強まる場面もあった。

ただ、ワクチン開発がすぐに訪日外国人客の増加につながる訳ではなさそうだ。第一生命経済研究所の小池理人副主任エコノミストは「ワクチンは安全性を確保したのち普及し、感染が落ち着いた後に初めて入国制限の緩和に向けて国同士で話し合うことになる」と解説する。ワクチンの開発・普及が、訪日外国人客数の増加という数字に表れるまでには時間がかかる。
国際航空運送協会(IATA)は16日にワクチンと医薬品の流通に関する指針を公表し、ワクチン輸送のために迅速な離着陸の許可や関税の緩和が必要だと言及した。第一生命経済研の小池氏は、ワクチン普及による航空需要拡大の影響は限定的だとしたうえで「訪日客の回復動向は数万人程度のペースで、極めて緩慢だろう」と分析する。コロナワクチンの開発は、観光産業を盛り上げる特効薬にはなりそうにない。