世界的に急成長を遂げるフードテックの世界。なかでも植物肉などの代替食材は、ベジタリアンを多く抱える西欧、アジア諸国を中心に急速に市場が成長している。世界人口の増加に伴い、将来の食料確保の観点からも重要視されている。
既存の食品事業者にとって、代替食材に一足飛びに移行するのは困難だ。食料の生産者は数が極めて多く、政治的な影響力も大きい。現在、代替食材市場を牽引するのは数多くのベンチャー企業で、米カリフォルニアを中心に百花繚乱の感がある。あまたのフードテック企業の中で技術の優位性がある企業はどこか。特許を基準として評価する。
黒字化が見えてきた代替食材事業
代表的なフードテック企業は米ビヨンドミートだ。業績の推移をみると、売上高は急成長している。今年は新型コロナウィルス感染拡大による影響があったとは言え、2020年は第三4半期の段階で既に昨年の売上高を超えた。米国の個人向けに当面は成長が続きそうだ。マーケティング費用が先行し利益水準は低いが、市場の広がりとともにコストの比率が低下し、着実に利益を計上できる段階に移る。
■ビヨンドミート業績
出所:アニュアルレポート
代替食材は、植物由来のものと動物由来のものとがあるが、現在は植物由来の市場が先行して拡大している。研究開発の蓄積が長く、宗教上の理由や健康志向などで巨大なベジタリアンの市場が受け皿となるからだ。動物由来の食材はまだ研究開発段階で、市場に定着するにはもう少し時間が掛かると思われる。
日本の特許も海外大手が主役
日本における代替食材事業に関連する特許出願は、2010年以降、急増している。しかも特定の企業に集中していない。過去10年間で合計163件の公開・登録特許が出願されているが、1社による出願件数は最大でも9件にとどまる。特許が分散していることから今後、代替食材の業界地図は大きく変わる可能性がある。
■代替食材事業における特許登録件数(日本)
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
上位の顔ぶれをみると1位ネスレ(スイス)、2位DSM(オランダ)、3位インポッシブル フーズ(米)と海外企業が3位までを占めた。日本企業の最高位は、6位の味の素、続いて7位のキッコーマンになる。特許の状況をみる限り、海外の大手企業が日本の市場をけん引しているようだ。
特許評価では外国ベンチャーが上位
KKスコアを用いて特許を評価したところ、また風景は変わる。大企業が独占するわけではなく、海外のベンチャー企業が多くランクインした。
首位のテラヴィアは、再生可能オイルを生産するバイオベンチャー企業だったソラザイムが母体だ。藻を原料としたジェット燃料を開発していたが、原油価格の下落とともに社名を変更して食品・栄養素材に事業を転換した経緯がある。研究開発費が先行し業績が低迷すると、2017年にオランダ食品大手のコービオンに2000万ドルで買収された。
■代替食材に係る有力な特許の保有企業のランキング
出所:PatentSQUAREにより日本知財総合研究所作成
注目特許
最も評価の高い特許は、テラヴィアがもつ微細藻類バイオマスの食物組成物に係る特許だ。(特許第5731982号)
藻類は繁殖が速く安価に大量生産が可能だ。事業化の観点からみると競合が激しい。この特許はその中核技術の一つで、フランスのロケットトレール社から特許無効訴訟などをおこされたが、勝訴している。(2020年11月25日)
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