【NQNニューヨーク 古江敦子】12月3日の米債券市場で米長期金利の指標である10年物国債利回りは低下し、前日比0.02%低い(価格は高い)0.91%で終えた。新型コロナウイルスの感染拡大による米景気への悪影響は拭えず、安全資産である米国債の需要は根強い。米国での個人の破産申請件数は足元で減っているが、米政府支援が途切れた際には急増し、景気回復の勢いを一段と鈍らせるリスクが潜んでいる。
■来年は個人破産の申請が急増?
米法務関連サービス会社エピック・システムズの調査によると、11月の米破産申請件数は全体で3万4440件と2006年1月以来14年ぶりの低水準となった。経営破綻した企業による連邦破産法11条の適用申請が40%増えた一方で、個人の自己破産申請の減少が続いた。1月から11月までの個人の破産法13条の申請は前年同期比で45%減、個人が資産売却で債務免除となる7条は同21%減った。20年の年間の自己破産法申請は1985年以降の低水準になりそうだという。
エピックのクリス・クルーズ氏は「米政府の経済対策や州政府による住宅差し押さえ停止措置などが個人の破産申請を遅らせている」とみる。年末で期限となる失業給付の特別措置などが延長されなければ、来年には個人破産の申請が急増し、特に7条の申請が増すと予想する。自己破産が増えれば個人消費が伸び悩み、需要減退による生産低下などで景気を冷やすリスクが高まる。クルーズ氏は「コロナ禍との戦いはまだまだ続く」と予想する。
米連邦住宅金融庁(FHFA)は2日、政府系住宅金融機関が保証する住宅ローンを利用する戸建て住宅の差し押さえと立ち退きの停止措置を来年1月まで延長すると発表した。市場では「わずか1カ月の延長ではあまり意味がない」との見方は多い。
■「追加対策は遅れるよりも早く決める必要がある」
3日発表の新規失業保険申請件数は71万2000件と前週(78万7000件)から減り、市場予想より少なかった。だが、14日までの1週間で失業給付の13週間給付への切り替え申請件数は前週比で増えていたという。延長措置は年末が期限となる見通しだ。ハイ・フリークエンシー・エコノミクスのルベーラ・ファルーキ氏は「新型コロナ感染の再拡大で労働市場の回復が一段と遅れる見込みで、経済対策なしでは景気の下振れリスクが強まる」と懸念を隠さない。
民主党のペロシ下院議長は「追加対策は(規模を巡る交渉で)遅れるよりも早く決める必要がある」と述べた。同党が従来案を捨てて規模が小さい9080億ドルの超党派案を支持したことについて、共和党上院トップのマコネル院内総務は3日、「正しい方向への第一歩だ」とコメントした。与野党協議の先行きは前進したとも取れるが「追加対策の詳細が明確になるまでは、景気の先行き不透明感は続くだろう」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)。3日の長期金利の低下は、市場のそんなムードを映していたといえそうだ。
<金融用語>
米連邦破産法11条とは
米連邦破産法11条とは、チャプターイレブン(Chapter11)ともいい、再建型の企業倒産処理を規定した米連邦破産法の第11条のこと。日本の民事再生法に類似し、旧経営陣が引き続き経営しながら負債の削減など企業再建を行うことができる。 経営陣は、申請から120日以内に再建計画を提出し、債権者の過半数かつ債権額の3分の2以上の債権者の同意を得て裁判所の認可を得ることが必要。 これに対し、連邦破産法で事業を終了し、会社清算の手続きを規定している条項は、第7条であることから、清算型の倒産処理はチャプターセブン(Chapter7)と言われる。