【日経QUICKニュース(NQN) 内山佑輔、池田幹、小国裕梨恵】 2020年の株式相場は1月に表面化した新型コロナウイルスの感染拡大を背景に一時的に大幅調整するなど波乱が目立った。足元ではワクチンの普及期待で持ち直し、日経平均株価は歴史的な高値水準まで回復。21年はコロナの収束期待が一段と高まり、衆院選や延期になった東京五輪・パラリンピックの開催といった大きなイベントも控える。
同年の相場見通しについて市場関係者5人に取材したところ、下値は2万4000~2万6000円。年後半にかけて上昇するとの声が多く、上値は4人が3万円以上と回答。3万5000円乗せの予測もあった。
質問内容は(1)年間の日経平均のレンジ、(2)その理由や注目するイベントなど。
■自粛の反動で消費・投資活発に、年末に3万5000円も
武者陵司・武者リサーチ代表
(1)2万6000円~3万5000円
(2)年初は米国でバイデン政権への移行がスムーズに進まないなどの理由で一時的に調整するリスクもある。コロナワクチンの副作用リスクが高まるなどすれば2万6000円程度まで下げる可能性もあるが、後から押し目買いの好機だったと振り返ることになるだろう。
日経平均は21年末くらいに3万5000円まで上昇する可能性がある。来年後半にはワクチンの普及でコロナ禍は沈静化に向かうだろう。自粛の反動でペントアップ需要(抑制されていた需要)が盛り上がり、消費や投資が活発化する。特に素材や観光などに関連するセクターは、需要が落ち込んだ20年の反動の恩恵が大きいのではないか。DX(デジタルトランスフォーメーション)や脱炭素のトレンドも鮮明で、将来の普及を見越した投資が活発化しそうだ。
衆院選が控えるが、自民党優勢の状況は変わらないだろう。アベノミクスが財政引き締めだった一方、菅義偉首相は73兆円規模の追加経済対策を含め財政によって需要を創造する姿勢を示した。株式市場にはポジティブだ。
■9月頃に見込まれる衆院選で政権基盤安定、5G関連に関心
伊井哲朗・コモンズ投信社長
(1)2万4500円~3万2000円
(2)日経平均は21年10~12月にも3万2000円を付けるとみる。米連邦準備理事会(FRB)は年間を通して大規模緩和策を維持し、株式を含めた資産価格が上昇しやすい環境が続くだろう。ワクチンの接種に伴い世界各国で感染が収束する方向に向かい、景気回復が予想されるが、「病み上がり」でFRBが利上げに踏み切るまでは至らない。
注目は衆院選だ。夏の東京五輪・パラリンピックを成功させた後の9月頃に実施されるとみる。選挙で自民党が大勝し政権基盤が安定化すれば、菅首相が推進するデジタル改革への信頼度が高まる。これまで消極的だった海外投資家が本格的に日本株に資金を振り向けるきっかけになる。高速通信規格「5G」関連銘柄などが関心を集めよう。
もっとも、急激な円高進行などには注意が必要だ。足元では米国の金融緩和が当面続くとの見方から円買い・ドル売りのポジションが積み上がっている。1ドル=100円を超えて円高が進めば輸出企業の採算悪化への懸念が高まり、日本株相場を下押しする要因となる。その場合、日経平均は2万4500円程度まで下落する可能性がある。
■業績回復と低金利の環境が併存、人手不足のリスクに留意
池田雄之輔・野村証券チーフ・エクイティ・ストラテジスト
(1)2万4500円~3万0500円
(2)21年は10~12月期に日経平均が3万0500円まで上昇する余地があるとみている。コロナワクチンの普及が見込まれるうえ、コロナ禍からの景気回復とともに設備投資が急速に回復してくるのが大きい。機械など製造業を中心に業績回復が続くだろう。環境規制で水素や電気自動車(EV)などに絡んだ設備投資も増える可能性があり、業績回復シナリオを描きやすい。
21年はまだ回復の初期段階のため、FRBの利上げも見えず米金利の上昇は限定的だ。株式市場にとっては業績回復と低金利の環境が併存する好ましい状況だ。衆院選前には菅政権がデジタル領域において改革姿勢を強めるなど、国民受けしやすい取り組みを打ち出してくる可能性が高く、株価の支援材料になるだろう。
一方で1~6月期には一時的に日経平均が2万4500円程度まで下げる可能性が高い。個人消費の回復に雇用回復が追いつかず、人手不足で景気や企業業績の回復が予想外に減速するリスクには注意が必要だ。FRBと市場の対話がうまくいかず、タカ派のイメージととらえられるなどのリスクも可能性として考えておく必要はあるだろう。
■3月期決算の発表時期に調整も、上昇基調変わらず
壁谷洋和・大和証券チーフグローバルストラテジスト
(1)2万4000円~3万円
(2)21年の日経平均株価は上昇基調が続き、年末にかけて3万円程度まで上昇余地がある。20年度中に国内でもワクチン接種が始まることが前提だ。ワクチンの普及状況にもよるが、21年6月ごろまでには国内での感染が収束へと向かうとみる。
現時点では自動車や工作機械など製造業が景気回復をけん引するが、コロナが収束すれば、大きく打撃を受けた飲食や旅行関連など非製造業の業績回復が予想される。期待先行で上昇してきた株価を正当化できる状態にまで景気が上向けば、一段の相場上昇の手掛かりとなる。
日経平均の調整リスクが高まる可能性が高いのは、21年3月期決算が発表される4月下旬~5月半ばだ。決算発表を受け足元の企業業績の改善が想定よりも鈍いとの受け止めが広がれば、日経平均は一時的に2万4000円程度まで下落するとみる。
■年前半はコロナ拡大で弱含み、五輪開催がサービス業後押し
青木大樹・UBSウェルス・マネジメント日本地域最高投資責任者
(1)2万4000円~2万8000円
(2)21年前半の日経平均は弱含みそうだ。国内で新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、営業自粛や政府の需要喚起策の一時停止が延長される可能性が高い。飲食や旅行業などの業績回復の遅れが改めて意識され、株価の下押し圧力になりそうだ。日本ではワクチン接種開始にまだ時間がかかるとみられ、日経平均は3月頃までに2万4000円まで下落する余地があるとみている。
一方、年後半には上昇基調に戻る。ワクチンの普及で国内外で本格的な景気回復が視野に入る。円で資金を調達し高金利通貨で運用する円キャリー取引も増えるとみており、円安が進行して輸出に絡む製造業には追い風だ。なかでも環境政策などのテーマに乗った銘柄が物色されやすいだろう。
21年夏の東京五輪・パラリンピックの開催で人の移動がある程度しやすい環境になると、サービス業を中心に一段の業績回復も期待できそうだ。21年末までに日本株は2万8000円まで上昇する可能性がある。