【日経QUICKニュース(NQN) 寺沢維洋】2021年の新規株式公開(IPO)市場では、上場する会社数が高水準で推移し活況が続きそうだ。社数は90~100社程度とリーマン・ショック以来過去最高の社数となった20年(93社)並みかやや上回る規模となる見込み。投資意欲が旺盛ななか、赤字でも知名度向上を狙って上場を目指す企業が多そうだ。
ニュース配信アプリのスマートニュース、石灰石を原料にした新素材のTBMなどの上場が有力視されている。20年の上場を見送ったキオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)、再上場となる航空大手のスカイマークも動向が注目される。
■AIやSaaSの人気継続
20年は新型コロナウイルスの感染拡大によって相場が一時大きく崩れ、春先はIPOの中止が相次いだ。一時は、新規上場社数が半減する可能性もささやかれたが、蓋をあけてみれば社数は増加。野村証券の倉本敬治・公開引受部長は「コロナの影響を受けにくいビジネスや、新しい需要を捉えた企業が出てきた」と背景を語る。
野村証券は、IPO社数(プロ向け市場「TOKYO PRO Market」を除く)が21年も増える傾向と予想。近年は資金調達だけでなく、知名度や信用力の向上を目的に上場を目指す企業も目立つという。SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やAI(人工知能)関連の「情報・通信業」に属する企業が多い。20年は全体の4割弱を占め、「来年も引き続き人気が続きそうだ」(倉本氏)としている。
情報・通信業では赤字上場も少なくない。従来はバイオベンチャーなどに多く見られたが、近年はハイテク企業が赤字上場の大半を占める。いちよし証券の宇田川克己投資情報部課長は「企業の上場への関心、投資家のIPO市場への投資意欲が高まっていることの表れ」と指摘。また、「一口に赤字企業といっても、営業キャッシュフローやEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)でみれば黒字というケースもある」(宇田川氏)と指摘する。
■大型案件乏しく
一方、20年のIPO市場ではディールサイズ(市場からの資金吸収額)が1000億円を超える大型案件はなく、資金吸収額の合計は前年比1割増の3600億円程度にとどまる見通しだ。
新規上場が取り沙汰される銘柄には、スマートニュースやレシピ動画サービスのdelyのほか、新素材を手掛けるTBMや素材ベンチャーのスパイバーなどがある。
中でも注目されるのはTBM。新素材「ライメックス」は飲食店のメニューなどで紙のように使うことができ、ペレット状のものを加工すればプラスチックの代替素材にもなる。買い物袋や食品の包装材などに使われる。世界的に脱プラスチックの流れが強まり注目を集めている。上場企業の時価総額にあたる企業価値が1233億円と推計される。
1000億円超えの企業は、TBMとスマートニュース、人工知能(AI)開発スタートアップのプリファード・ネットワークスの3社のみといわれる。小規模の新規上場銘柄も少なくなさそうだ。
東証マザーズ指数は10月におそよ14年ぶり高値を付けた後は上値が重い。一方、個人の潜在的な投資余力は大きく、値動きが軽いIPOに賭ける投資家は多い。IPO銘柄はあくまでも玉石混交。抽選倍率が高まるなか、セカンダリー(流通市場)での高値づかみを避けるためにも、成長性を冷静に見極める必要がある。