【日経QUICKニュース(NQN) 山田周吾】日米金利差の拡大が鈍っている。外国為替市場では金利差の急拡大で、円安・ドル高へ反転するとの見方が年明けに勢いを増したが、こうした観測は早くも失速している。米長期金利の上昇に歯止めがかかる一方で、国内の長期金利が上昇の兆しをみせているのも金利差縮小の要因だ。日銀が3月の政策点検などを通じて国内長期金利の上昇をどこまで容認するかがカギの一つになる。
■金利差拡大が一巡
米国のバイデン新政権による財政急拡大の思惑から、米長期金利は年明けに節目の1%を超えてきた。QUICKによると長期金利の指標となる日米の10年債利回りの差は今月11日時点で1.108ポイントと2020年3月以来、10カ月ぶりの大きさに広がった。
新型コロナウイルスの感染拡大による金融・資本市場の大混乱が落ち着いてきた20年4月時点で1ドル=108円前後だった円相場は、日米金利差の縮小に伴いじり高が続き、年明け直後は102円台まで上昇した。しかし、日米金利差が再び拡大すると円売り・ドル買いが増え、104円台に下落。円のじり高基調からの反転を見込む声が広がりつつあった。
その後、日米金利差の拡大は鈍り、20日時点では1.046ポイントにとどまっている。米長期金利の上昇が止まったのが主因だ。12日に1.18%まで上昇した米長期金利は、20日は1.08%だった。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が14日の講演で、テーパリング(量的緩和縮小)について慎重な見方を示したのが、米長期金利の上昇に歯止めをかけた。米政府が大規模な財政支出に動いても、FRBが金利上昇を抑えるとの見方が強まっている。
※米金利から日本の金利を差し引いた差=スプレッド(SPRD、単位:ポイント)
■日銀の「点検」待ち
一方、日本の長期金利には上昇圧力の高まりが意識されつつある。日銀が3月に予定する政策点検にからみ「長期金利操作の変動幅を拡大する可能性」と伝わったのがきっかけだ。日銀は現在、長期金利の誘導目標をゼロ%程度としたうえで、上下0.2%程度の変動を許容している。現在の大規模金融緩和を長期的に続けるためには、債券市場の機能低下をはじめとする副作用の軽減が必要で、このため許容する変動幅を広げるというものだ。
日銀が21日まで開いた金融政策決定会合では大規模緩和の維持を決めた。市場参加者の視線はすでに政策を点検する次回3月の会合に向かっている。三井住友トラスト・アセットマネジメントの押久保直也氏は「日銀が実際に長期金利の許容変動幅の拡大に踏み切れば、円高圧力には拍車がかかる」と予想する。
米長期金利の上昇が限定的な一方で、国内長期金利が上昇に向かえば、日米金利差は再び縮小に向かいやすい。日銀の黒田東彦総裁が21日午後の会見で、変動幅の拡大などに言及すれば金利差縮小が進む可能性がある。
21日の東京外国為替市場では円は103円台半ばで小幅な動きとなっている。ワクチン普及で日本に先行する米国経済に関連しては「景気回復が見込め、ドル買いが入りやすい」(ワイジェイFXの遠藤寿保氏)との声もある。その場合は米長期金利の上昇が勢いを増し、日米金利差の拡大に伴う円安・ドル高は息を吹き返すことも考えられる。