【QUICK Market Eyes 川口究】米国における大型の経済対策や新型コロナウイルスのワクチンの浸透による経済正常化期待など受けた米長期金利の上昇が日米でのグロース株からバリュー株へのローテーションを進めた。だが預金の大幅な増加が米金融機関の米国債買いを促している。昨年後半以降、月前半に上昇したバリュー株が月末にかけて失速する展開が続いたが、今後はグロース・バリューのベア・ローテーションの展開を迎える可能性もありそうだ。
■バリュー株に利益確定売りが?
バイデン政権への経済対策期待や新型コロナウイルスのワクチン接種開始による経済正常化期待などを受けた米長期金利の上昇で、グロース株からバリュー株へとローテンションが進んだ。S&P500グロース指数をS&P500バリュー指数で割ったGV倍率は2020年9月1日に高値に達して以降、下落基調にある。日本でも12月以降はローテーションが進みつつあり、11月末を基準としてみるとTOPIXバリュー指数がTOPIXグロース指数をアウトパフォームしている。
短期的な物色面では月末に向けてバリュー株に利益確定売りが進む可能性がある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は1月18日付リポートで、2020年の年後半において月前半にバリューが優勢となり、その後失速することが目立つようになってきていると指摘。20年以降の月前半及び月後半において、BPR(PBRの逆数)ファクターのファクターリターンを分けて計算し、それを累和すると、昨年7月以降の累和ファクターリターンは月前半がプラス19.0%に対し(21年1月15日まで)、月後半はマイナス21.4%(20年12月30日まで)とその差が40%以上にもなっていることが分かったという。
この背景として、まず、市場リターンとの関係性を挙げた。昨年7月以降の日本株市場全体(TOPIX)のリターンを上記の分析と同様に前半と後半に分けると、前半が大幅にプラスとなる傾向が見られた。昨年後半はコロナ禍からマクロ指標が全世界で改善基調にあり、重要指標の発表が月前半に多いため、マクロ指標改善に伴ったリスクオンが誘発されやすかったとみている。続いて、世界的な大規模金融緩和によって株式市場は上昇しやすかった中で、月中に株式市場が上昇すればするほど後半にかけて月末リバランスの影響が大きくなることや、それを視野に入れた利益確定売りも出やすかったと考えられるという。
■ベア・ローテーションへの可能性
今後もグロース株とバリュー株のリターン格差が縮小するものの、バリュー株の上昇が落ち着く中、グロース株の割高修正を主因に下げ相場において、両者のリターン格差が縮小するベア・ローテーション展開へと変化する可能性もありそうだ。SBI証券は19日付リポートで、これまでバリュー株の上昇によってグロース株とのリターンが縮小するブル・ローテーションが続いてきたが、ベア・ローテーションへのシフトを見込んでいる。
その最大の要因はバリュエーションにあるという。米グロース株の20年12月時点のPERは35.2倍と95年以降の平均プラス2σ(31.3 倍)を上回っている。一方米バリュー株の同時点のPERは23.3倍だ。絶対水準がグロース株より低いために目立ちにくいが、95年以降では最も高い水準にある。PERを偏差値化して比べた場合、グロース株の77に対してバリュー株は85になった。金利との相対的評価から株式はまだ割安との見方がある一方で、絶対的評価の観点から、経済の正常化による業績回復はかなり織り込まれているとみている。
バリュー株高を誘った米長期金利の上昇は落ち着きつつある。米金融機関に巨額の預金が滞留していることが「運用圧力」につながっており、米金利が上昇すると国債に対して押し目買いが発生し、金利が上昇しきれない構図となっている。15日に決算発表したJPモルガン・チェースを含む米銀3行の預金は2020年10~12月期に前四半期から1821億ドル増加し、満期保有有価証券を923億ドル積み増していた。
<金融用語>
PBRとは
PBRとは、Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。 なお、一株当たり純資産(BPS)は純資産(株主資本)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。