※ICEコーヒー豆先物の推移
(※この記事は2月4日に配信されたQUICK端末からの転載です)
■ラニーニャ現象とアラビカ豆価格に相関性
前回8月の見通しではアラビカ豆価格は上昇し、その後下落する展開を想定していたが、概ね想定通りの展開となった。しかし、足下の高級コーヒー豆価格の指標であるアラビカ豆価格は、昨年11月以降のワクチン開発報道、それに伴う景気の回復期待を背景に価格水準を切り上げ高値圏での推移となっている。コロナの感染拡大は外食でのコーヒー消費需要を減じていたが、経済正常化の観測が需要に対する楽観を生んだ。それ以上にラニーニャ現象の影響で、最大生産国であるブラジルの気候が乾燥気候となり、供給への懸念が強まったことが強く影響したと考えられる。この20年のアラビカ豆価格動向と、エルニーニョ・ラニーニャ現象の発生動向を確認すると、比較的明確な相関性が確認される。2006年頃まではエルニーニョ現象発生時に価格が上昇し、ラニーニャ現象発生時に価格が下落する傾向が強かった。一般的にエルニーニョ現象の発生は、ブラジルの生産地で降雨による収穫の遅れを生じさせ価格の上昇要因になると理解されていたが、実際は逆になっており、ラニーニャ現象発生時の価格上昇の方がより顕著である。斯様な環境下、アラビカ豆価格への影響が大きい取引所在庫の水準は低水準で推移しており、過去5年の最低水準近辺での推移となっている。このことも価格を下支えする要因となっている。
■価格のピークは海洋ニーニョ指数の反転時か
しかし、コーヒー価格は恐らく下落に転じると見ている。米農務省の見通しでは2020-2021年は表作の年にあたり、コーヒー豆の生産量はアラビカ・ロブスタ合計で1億7,548万袋と、前年から698万2,000袋増加する見通しであるのに対して、需要は域内需要・輸出需要も含めて576万8,000袋の増加が見込まれており、期末在庫は442万5,000袋増加の1,008万2,000袋が見込まれている。この結果、在庫率は25.0%と、2014-2015年以来の高水準となる。また価格に対する説明力の高い需給率も93.1%と前年の94.4%から低下する見通しであることも価格を下押しするだろう。
では、どのタイミングで下落に転じるかといえば、1.ドル指数動向を受けたブラジルレアル動向、2.ラニーニャ現象の動向、に依拠することになると考えている。
1.に関しては昨年、コロナウイルスの影響が拡大する中、世界中が景気を刺激するために財政出動や金融緩和を行ってきた。特に米国の財政出動と金融緩和が突出していたが、この影響で何かしらの理由、例えば米国の景気が回復基調に入り金融緩和の必要性が薄れた場合などに、ドル安の流れがドル高に転じる可能性がある。また、景気刺激が顕著になる中で「株高・ドル安」の流れが強まった。しかし、コロナワクチンの接種の進捗を受けた経済の正常化や長期金利の上昇が、逆に期待先行で上昇してきた株を下押しすることも考えられる。このこともドル高要因となり得る。また、原油価格から乖離して上昇する規定インフレ率修正の可能性もドル高観測を強めることになる。仮にこのような事象を切っ掛けにしてドル高が進行、それに伴ってブラジルレアル安が進めばコーヒー豆輸出競争力の改善で輸出が増加、国際市場の需給緩和に寄与すると予想される。
また、こういったファイナンシャルな面での流れが変わらなかったとしても、ラニーニャ現象が未来永劫続く訳ではない。過去の例を見ると米海洋大気庁が算出している海洋ニーニョ指数の低下に歯止めがかかり、上昇に転じるタイミングでコーヒー価格は下落している。気象学の細かい議論はここではあえてしないが、この20年のニーニョ指数の最低値が▲1.70、現在が▲1.30であることを考えるとまだ低下余地があり、コーヒー価格が上昇する余地はある。しかしこのニーニョ指数が上昇を始めるタイミングが価格上昇のピークとなる可能性は高いと考えている。