フィデリティ投信マクロストラテジストの重見吉徳が日本の投資家の皆様に、マーケットの動きを理解するためのヒントをお伝えします。
これから数回に分けて、バリュー「指数」とバリュー「銘柄」、グロース「指数」とグロース「銘柄」との違いについて考えます。それは、インデックス投資とアクティブ投資について考えることでもあります。
バリューvs.グロースではなく、偽物どうしの対決
筆者は、2007年からパンデミック以降も続く「バリュー劣後・グロース優位」の株式市場について、対決の支配的な構図は、「本来のバリュー株式」vs.「本来のグロース株式」ではなく、「バリュー(回復力)を消されてしまった企業」vs.「資本力やレントシーキング(ロビー活動)によって、成長ポテンシャルのある小型企業(≒本来のグロース企業)との競争を回避し、消費者の選択肢を狭め、価格や家計にとっての潜在コストを引き上げる大型・独占企業」との対決だろうと考えています。いわば「偽者どうしの対決」と言ってよいかもしれません。
規制vs.自由
「バリュー劣後・グロース優位」の株式市場は、ひとつには、「市場構造に制約を課されている企業」と「自由なままの企業」との差から生じているでしょう。
言い換えれば、金融規制(→ボルカー・ルール施行は2015年)、中国を含む地球温暖化対策(→パリ協定発効は2016年)、最近では金融抑圧(インフレを下回る水準への長期金利の誘導)やESGなど、過去の「自由と資本主義の行き過ぎ」から制約を課されつつある企業と、ITテクノロジーが持つネットワーク外部性のみならず、類似スタートアップ企業の買収やロビー活動などで独占を強め、租税回避を含むグローバル化でマージンや株主利益を最大化する、いわば「自由と資本主義の行き過ぎ」の恩恵を依然受ける企業との差です。グローバル化や単純労働の増加、独占資本の蓄積や租税回避、財政難は、経済格差とディスインフレにつながっています。
あるいは「単なる景気敏感銘柄」が「大型・独占銘柄」に居場所を奪われていることもあるかもしれません。地球・金融環境の制約やテクノロジー独占企業の存在もあって、利益の長期的な成長期待に乏しく、景気循環の波を漂うだけの「単なる景気敏感銘柄」は景気回復・インフレ時には「上げ潮」的に浮き上がるものの、だとすれば、同じ景気敏感でかつ、ディスインフレ時にも底堅い「大型・独占銘柄」を選好する動きが続いているのかもしれません。
単なるモメンタム効果
もうひとつは、グロースに分類される株式が「正のモメンタム効果」(買いのトレンドフォロー)の恩恵を受け、バリューに分類される株式には、グロース・ロングの裏側として「負のモメンタム効果」(アンダーウェイトのトレンドフォロー)が生じている、というものです。
「過去が今後も続く」との強い思い込みや群集心理(≒個人投資家の台頭)と、彼らを追いかけたり先回りしたりするプロのトレンドフォロワーとの相互依存、言い換えれば、テクノロジーやESG、独占企業に対する「正のモメンタム効果」と、それら以外に対する「負のモメンタム効果」です。これらをサポートしているのは、手数料ゼロの株式や信用・オプション取引(レバレッジ)と、プロによるフロントランニングを可能にすることで個人の取引手数料ゼロを実現させるペイメント・オーダー・フロー(POF)であり、まとめれば金融テクノロジーの進化です。
低金利は?
3つ目として、低金利が挙げられるかもしれません。確かに、低金利やゼロ金利は、当面は利益がゼロや赤字であるものの、遠い将来には利益や利益の成長が期待されるような小型企業(≒本来のグロース企業)の株価をサポートします。しかし、足元では、いくら金利が低下しても、小型・成長株式は冴えないままで、株価は「モメンタム」を失ったように見えます。そして、残されるのは大型・独占銘柄です。やはり根底を流れるのは、モメンタムと独占に見えます。ちなみに、2000年のITバブル崩壊時も、小型・成長株式が大型・成長株式よりも先にピークを付けました。
「君主」による独占や富の追求、個人投資家の台頭、過去の外挿は、いったん走り出したら止まることはできず、それゆえいつか終わることを歴史は示唆します。
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