【NQNニューヨーク 張間正義】米債券市場のイールドカーブ(利回り曲線)で、償還までの期間の短い債券の利回りが期間の長い債券の利回りを上回る「逆イールド」が起きた。景気後退の予兆とされ、投資家の関心も高い。ポイントをQ&A形式でまとめた。
イールドカーブは通常は右肩上がり
Q:イールドカーブとは何か。
A:債券の利回り(イールド)を償還までの期間の短い順に左から右に並べ、線でつないだグラフを指す。通常は償還までの期間が長くなるほど利回りが高くなるので、イールドカーブは右肩上がりの形状になる。
Q:なぜイールドカーブは右肩上がりになるのか。
A:償還までの期間が長くなればなるほど、債券価格は期間中の景気や物価など市場環境の変化の影響を受けやすくなるからだ。投資家は価格変動リスクに見合った利回りを要求するため、償還までの期間が長い債券ほど利回りは高くなる。
Q:逆イールドとはなにか。
A:イールドカーブの形状が通常とは逆になり、償還までの期間が短い債券の利回りが期間の長い債券の利回りを上回る状態を指す。米国債市場では4月1日、2年物国債利回りが終値で2.46%となり、10年物国債の2.38%を上回った。2年債と10年債の利回りが逆転したのは2019年8月以来だ。
中銀の利上げが逆イールドを誘発
Q:なぜ逆イールドは発生するのか。
A:中央銀行の金融引き締めが理由だ。インフレを抑えるために中央銀行が金融引き締めモードに入ると、通常は1~3年程度にわたって利上げが続く。それを織り込んで債券市場では2年債など中期債の利回りが上がりやすくなる。一方、利上げで将来の景気が減速し、いずれは利下げに転じると投資家は予想するため、長期債の利回りは中期債ほどには上がりにくい。その結果、逆イールドが起きる。
米連邦準備理事会(FRB)は高インフレを抑えるため、3月に2018年12月以来となる利上げを実施した。米国のインフレ率は40年ぶりという歴史的な高さにあり、今後も利上げを急ぐ公算が大きい。それを映して2年債利回りが今年に入って急上昇し、10年債を逆転した。ただ、先週はFRBの資産圧縮の加速を織り込んで10年債利回りが大きく上昇したため、足元では2年債との逆イールドは解消されている。
Q:市場が逆イールドに注目するのはなぜか。
A:景気が後退するサインとされるからだ。ただ、債券の逆イールドには色々な組み合わせがある。市場が最も注目するのは2年債と10年債だ。過去も景気後退につながった例が多いのは確かだが、利回り逆転が景気後退に2年程度先行することもあるのが難点だ。逆転するのが早すぎて、予想として役に立ちにくい。
米国の利上げは為替のみならず世界の株式市場や他国の金利、さらには原油や金といった商品市況にも影響を与えます。今回の利上げの狙いは景気の過熱感や金融資産のバブル的な兆候に対する先手と言うより、過度な物価上昇を抑制し景気の大幅な落ち込みを避けることにあります。長きにわたって先進国の物価上昇は緩やかなペースでした。日本にいたってはマイナスに沈んでいくデフレ経済です。これらが一気に反転したことで世界のあらゆる金融市場に動揺が走り、経済指標や中央銀行や政治家と言った要人発言に一喜一憂する展開が続いています。価格変動が大きく先行きの見極めも難しい状況です。 QUICK Money Worldでは日々のマーケットの変化を専門記者・ライターが伝えています。以下のリンク先では利上げに絡んだ「為替・金利」に関する記事を一覧にしています。マーケット情報の収集と知見の獲得にぜひご活用ください(一部は会員限定コンテンツとなっています) |
重要なのは短期債と中・長期債の利回り逆転
Q:どの債券の組み合わせをみればいいのか。
A:FRBが重視するのは3カ月物短期国債と10年債の組み合わせだ。1960年代後半から8回あった景気後退のすべてで事前に3カ月物と10年債の利回りが逆転した。予測的中率は100%だ。ニューヨーク連銀によると「経済活動に対する先行期間は4~6四半期」という。8日終値では10年債利回りは2.70%と3カ月物の0.70%を2%上回っている。利回り差は昨年末(1.45%)からむしろ大幅に拡大しており、逆イールドにはほど遠い。その点ではまだ景気後退の心配はなさそうだ。
Q:ほかにも目配りすべき債券の組み合わせはあるか。
A:FRBのパウエル議長が最近の講演で「100%説明する力がある」と取り上げた3カ月物短期国債利回りと「18カ月先の3カ月物先物金利」の利回り差も市場の関心を集めている。これは言い換えれば「現在の短期金利」と「1年半後の短期金利」を比較するものだ。もし現在の短期金利より1年半後の短期金利が低いなら、1年半後までにFRBが利下げに転じると市場が予想していることになる。その状況では近い将来に景気後退が起きる可能性が高いというわけだ。こちらも昨年末より拡大しており、景気後退のサインは点灯していない。
Q:そもそもなぜ逆イールドが景気後退につながるのか。
A:実体経済への影響としては、銀行貸し出しが減少するからだ。銀行にとって短期金利は預金や短期市場を通じた「調達金利」、中期や長期の金利は「貸出金利」にあたる。逆イールドが起きれば調達金利が貸出金利を上回ることになり、銀行は貸し渋ったり、貸出金の回収を急いだりする。その結果、景気後退に陥りやすくなる。
その点からも短期債の利回りと中・長期債の利回りを比べた方が景気後退の予想としては説得力が高いといえるだろう。米債券市場では20年債と30年債、5年債と10年債の組み合わせでも逆イールドが起きているが、景気後退の予測としてはあまり意味がない。