ツイッターで「なおエ」がトレンド入りしたと知った。米野球大リーグのロサンゼルス・エンゼルスの二刀流、大谷翔平の活躍を報じる日本のメディアが「なお、エンゼルスは試合に敗れた」と最後につけ加えることを示す「ネット用語」。日本の新聞やテレビではチームの勝敗がわからないことすらある。米国の報道はちょっと違う。アスレティックスとの開幕戦について、ニューヨーク・ポスト紙は「大谷翔平は10奪三振で6回無失点」の後に「でもエンゼルスはまた敗れた」との見出しで報じた。「なおエ」と比べ試合結果も重視する「でもエ」。
米国では「4大プロスポーツ」への関心が高い。テレビの市場規模はNBA、NFL、NHL、MLBの4つが大きい。MLBの規模はNFLとNBAを下回り3番目との分析が多い。レギュラー・シーズン試合数が17と非常に少ないNFLのテレビ広告費は突出している。ニールセンによると、NFLの今年の優勝戦「スーパーボウル」を1億1300万人が視聴。フォーブス誌は、広告費が30秒で700万ドル(約9億2000万円)に達したと報じた。アメリカン・フットボールとバスケットボールは大学対抗戦もネットワークTVが放送するのに対し、野球大リーグの試合はどこで視聴するのかわからないことすらある。
CNBCは、テレビとストリーミングが入り乱れファンが混乱していると報じた。大谷翔平が先発したエンゼルスの開幕戦は、Bally Sports West(BSW、バリースポーツ・ウエスト)というラスベガスのカジノの名前を冠した地域ネットワーク・チャンネルで放送された。ケーブルTVパッケージに含まれない地域もあり、ストリーミングのFubotv(フーボTV)しか視聴手段がないファンもいる。ダルビッシュ有が所属するパドレスの試合はバリースポーツ・サンディエゴで視聴できるが、ロサンゼルスの我が家では観れない。
「アメリカン・パスタイム(米国人の娯楽)」と呼ばれた野球。いまや米国人の人気はアメフトとバスケに劣るが、復活の兆しがある。きっかけは今年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦。経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルは異例に詳しく報じた。決勝戦9回裏の大谷とトラウトの真剣勝負について「大いに興奮」「忘れられていた野球の醍醐味を教えてくれた」とするコラムを掲載した。欠陥のある決済システム、金遣いの荒い一握りの人間による支配、地域スポーツネットワークの混乱などで消えかけていた娯楽が復活するかもしれないとしている。
米国での野球人気の回復に大きく寄与している1人は間違いなく二刀流の大谷だ。米国のメディアの関心は高く、過去と現在の日本人アスリートの誰よりも扱いが大きい。「スーパースター」という形容詞をつけ報道。CBSスポーツのスポーツ記者は、伝説のプレーヤーであるベーブ・ルースを遥かに超えると絶賛。ロサンゼルス・タイムズ紙は、大リーグの新ルールで大谷が打率3割を記録しMVPを獲得する可能性があるとするコラムを掲載した。
大谷の経済的評価もうなぎ登りだ。フォーブス誌の今季の総収入ランキングで大谷は6500万ドル(約86億円)でトップ。前年比15%増と試算、大リーグの歴代最高額を記録する見通しとしている。NBCスポーツは、WBCでの歴史的な活躍を受け大谷の価格は上昇する一方だと報じた。CNNは、大谷個人のNet Worth(資産価値)はニューバランスなどとの新たなスポンサー契約と合わせ歴代記録をさらに破る方向だと伝えた。
「なおエ」と「でもエ」が象徴するように、大谷が所属するエンゼルスは弱く、知名度と人気はニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースに比べ劣る。スポーツ専門局ESPNの記者はオンライン動画で、大谷がフリーエージェントとなる次の冬にドジャースと少なくとも6億ドル(約797億円)超の契約金で移籍すると予想した。米国の大谷報道が止まらない。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。