【QUICK Money World 辰巳 華世】MaaS(マース)って知ってますか?これは、人工知能(AI)を活用したサービスの一つで、私たちの暮らしに欠かせない「移動」をより便利に快適にするものです。今回は、最適な移動手段を教えてくれるMaaSを紹介します。MaaSについての基本的な説明から、MaaSを使うメリット、普及に向けた課題や今あるMaaS事業の事例などを解説します。
■MaaS(マース)とは?
MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、最適な移動手段を教えてくれる交通サービスのことです。
MaaSは始まったばかりの取り組みなので、まだ概念があまり知られておらず馴染みがないと感じる人がいるかもしれません。ここで、MaaSがどんなサービスなのかを掴むためにイメージしてみましょう。
例えば、あなたは、旅行で初めて訪れる地域にいるとします。そこから別の見知らぬ地点に移動する必要があります。これまでは、ホテルの人に移動方法を尋ねたり、インターネットで検索して移動手段を絞り込んでいったり、個別に経路検索をし調べて移動方法を決定していたと思います。
しかし、MaaSのサービスを利用すれば、こういった検索は不要になります。MaaSを使えば、その場所からの一番最適な移動方法を、渋滞状況や遅延などあらゆることを加味して教えてくれます。しかも、そこから利用する交通機関の予約、支払いまで完了してしまいます。
MaaSサービスは、一つのアプリ上で様々な交通機関が検索できたり予約、利用できたりする仕組みです。MaaSには人工知能(AI)も活用されています。リアルタイムで交通、天候情報、事故情報、交通量のデータなどを分析し最適なルートや交通手段を教えてくれます。利用者の利用履歴なども学習し、より個人に最適な移動プランを提供することもできます。
MaaSという言葉自体を知らなくても、実は既にアプリとしてMaaSのサービスを利用していたり、知っている人は意外と多いかもしれません。
例えば、タクシーを呼べる「Japan Taxi」のアプリ。これはMaaSサービスの一つです。全国のタクシー会社が参加しています。47都道府県どこでもタクシーの配車、予約、料金の支払いまでできる便利なアプリです。
Japan Taxiのアプリは、タクシーだけに絞ったサービスですが、他にも電車、バス、タクシー、飛行機、船など複数の乗り物をベースとしたものや到着地の駐車場の空き情報を教えてくれるものなど、MaaSサービスには様々なタイプがあります。
MaaSは登場して間もないサービスであり、現在も発展途上にあります。民間企業だけでなく、国もMaaSの普及に努めています。国土交通省は関係省庁と連携しながら、全国にMaaSが普及するよう取り組みを進めています。
■MaaSが生まれた背景
MaaSは、フィンランドで生まれたサービスです。フィンランドにあるMaaS Global社のサンポ・ヒータネン氏が生み出したアイディアをベースに2014年に発表されました。
同社が開発・配布しているアプリ「Whim」が始まりとも言われています。経路検索だけでなく、このサービスを有料で利用すると、ヘルシンキでの鉄道やバスなど公共交通機関が乗り放題だったり、レンタカーやシェアサイクルなども基本無料だったり様々なサービスが受けられるそうです。
国内に自動車メーカーが無いフィンランドならではのアイディアが、高齢者の自動車免許返納の問題など、日本が抱える交通に関する課題解決に繋がる可能性を秘めていると言われています。
■MaaS普及のメリット
MaaSが普及することによるメリットを見てみましょう。
・渋滞時の移動問題解決
MaaSによって、交通手段の選択肢が増えます。利用者は最適なルートや交通手段を選択することができるようになります。交通の効率が向上し、交通渋滞の軽減に繋がります。
・排気ガス削減などによる環境問題解決
MaaSによって交通の効率化が進むと、交通渋滞の軽減だけでなく自動車などから排出される排気ガスによる環境問題が解決するなどのメリットにも繋がります。
・高齢者の交通問題解決
MaaSが普及することで、公共交通機関やライドシェア企業などさまざまな交通手段が統合され利用者に便利な情報を提供してくれます。地方での交通手段確保でほぼ必須だった自家用車の確保が不要になる可能性もあります。免許を返納した高齢者の移動手段や地方に住む人の交通手段が増え、高齢者の免許返納問題の解決に繋がります。
・公共交通機関利用の際の決済が便利になる
MaaSでは、公共交通機関を利用する際の検索や最適な情報提供だけでなく、利用する公共交通機関の予約や決済までができます。MaaSが広がることで、交通期間利用の決済などがスムーズに行えるようになるメリットがあります。
・観光やインバウンドの活性化
MaaSを使うことで、現地に詳しくない旅行者にとっても移動が便利になると、観光やインバウンド事業が活性化します。地域経済の活性化に繋がります。
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■MaaS普及の課題
広がり始めるMaaSサービスですが、広く普及するにはまだ多くの課題もあります。ここでは、日本におけるMaaS普及の課題について見てみましょう。
・法整備の必要性
今の法律や規制がMaaSに適用可能かどうかを検討する必要があります。MaaSにはさまざまなタイプのサービスがありますが、電車やタクシー、バス、飛行機など複数の公共交通機関の情報を一つのアプリなどで統合していくケースも考えられます。乗り物によって異なる法律や規制もあるため、これらを調整していく必要があります。
また、参加企業間でのトラブルや混乱が起きないよう、参加するためのルールなども整える必要があります。複数の企業が参加している場合、何か問題があった時の責任の所在を明確化することも必要です。
MaaSでは自動運転の活用なども期待されています。ただ、自動運転に関する法整備がまだ十分ではないという課題もあります。
企業側だけでなく、利用者側の個人情報に対する法整備も必要です。MaaSでは個人情報や移動情報を活用するため、プライバシーやセキュリティの問題が発生します。
・データのオープン化の必要性
MaaSの普及には、顧客情報や運用情報などのデータをオープン化し、誰もが利用できるようにすることが必須です。ただ、個人情報の問題や、財産権の問題、データの信頼性などさまざまな課題もあります。
・地方でのMaaS普及の問題
MaaSは、地方で都市部と同じシステムを導入してもうまく機能しない可能性があります。地方では公共交通機関が限られていたり、利用者に十分な選択肢が提供されない可能性があるためです。自動運転やモビリティ・サービスを提供する新たな事業など、各地域のニーズに合わせたサービスの導入が重要になります。
■国内のMaaS事業の事例紹介
MaaSが普及するにつれ、交通分野などで新しいビジネスモデルが生まれたり、新たな企業が市場参入するなど、MaaS事業の活性化が加速していく可能性があります。
MaaSは、交通機関を提供する会社だけでなく、MaaSのアプリなどシステム面で支えるIT分野、自動車メーカー、観光業などさまざまな業界に影響を与え、新しいビジネスを生み出す可能性を秘めています。ここではいくつかのMaaS事業の事例を見てみましょう。
・トヨタ自動車 my route(マイルート)
自動車メーカーのトヨタが提供するMaaSサービス。自動車だけでなく、公共交通機関、自転車などあらゆる移動手段を組み合わせて最適なルートを提案します。利用情報に基づいたおすすめスポットなどの提案も。カーシェアリングや駐車場予約、チケット予約なども可能です。
・小田急鉄道 EMot(エモット)
小田急電鉄が提供するMaaSサービス。箱根の8つの乗り物が乗り降り自由になったり、温泉や美術館など多くの施設での割引優待が受けられるチケットを購入、そのままスマホで使用できます。小田急線やバス、タクシー、カーシェアリングなど移動手段を組み合わせて最適なルートを提案。駐車場予約やチケット予約、カーシェアリングの利用も可能です。
・オプティマインド Loogia(ルージア)
名古屋大学発のスタートアップ、オプティマインドが提供するMaaSのプラットフォーム。配送拠点から家庭までの「ラストワンマイル」配送の効率化などを実現する、物流業界などで導入されているサービスです。実際の走行車両のGPSデータの解析で得られた情報を活用することで、精度の高い配車計画を提案します。
■まとめ
MaaSは、Mobility as a Serviceの略で、移動を最適化するための交通サービスのことです。まだ始まったばかりの取り組みですが、この先、いろいろな可能性を秘めた新しいサービスですので注目していきましょう。
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