【智剣・Oskarグループ 主席ストラテジスト 大川智宏】5月に入り、3月を決算期とする企業の本決算発表もピークを迎えた。コロナ禍からのリオープンに伴う内需企業の堅調な回復と、世界景気の後退に巻き込まれる形での外需や資源といった景気敏感企業の軟調さの明暗がはっきりと分かれたが、底堅い株式市場の動きを見るに、投資家の目線では概ね良好に受け止められたと見ていいだろう。
そして、1年で最大のイベントである本決算発表が終われば、また仕切り直しで再スタートを切ることになる。足元までの様々な期待やリスクは消化できたとして、問題はこれからどのように投資を考えていくかだ。これまで日本固有のアドバンテージであった出遅れリオープンの期待も、すでに大方が織り込まれてしまった感がある。東証のPBR1倍割れ企業撲滅キャンペーンももはや新鮮味はなく、この手の話題が大好物なヘッジファンドの買いもさすがに一巡したと思われる。注目を浴びた日銀の金融政策にも特に動きが無く、ここからの日本株市場には、明確な投資テーマが存在しない。
では、このような状況下で、どのようにして銘柄を選んでいけばいいのか。意外にも、その回答はシンプルだ。日本に投資戦略の種が見当たらないのであれば、他の地域にそれを求めたらいい。そして、日本と海外との経済環境の比較において、投資の観点で利用可能性の高い要素が存在する。それは、前述のように、日本は他の先進国(ここでは米国)に比べて「出遅れ」であったことだ。逆にいえば、米国は日本に対して一歩進んだ経済局面におり、それを日本が後追いしている状況にある。今後、仮に日本が米国の動きをトレースして動く可能性が高いのであれば、すでに先人の辿った軌跡を検証すれば、投資のヒントになるかもしれない。
実際に、日本(TOPIX)と米国(S&P500)のコンセンサス予想EPSの推移を見てみると、両者間でピークからピークアウトへ向かうタイミングに明らかなラグが見られる。
図:米国S&P500とTOPIXの予想EPSの推移
この図を眺めるだけでも、すでに日本の回復や成長の局面は終了してしまったことが理解できるが、重要なのは、日本株は米国株に対して5ヵ月程度のラグを持って成長がピークアウトを見せたことだ。このラグが維持され、米国経済への感応度が高い日本株が同じ経路を辿るのであれば、米国株市場の過去5ヵ月間、つまり年初来の銘柄の動きを概観することで、日本株投資への応用が可能となるかもしれない。
そこで、米国のS&P500指数の構成銘柄について、業種の年初来の騰落率のランキングとその顔ぶれを探ってみた。まずは、業種からだ。業種分類は、FTSE社によるICBスーパーセクターを使用している。
図:米国株(S&P500) 年初来騰落率上位下位5業種
出所:Refinitiv Datastream
上位の1位は、長年にわたって米国株を牽引し続けているテクノロジーだ。同業種は不況にも強いことで知られ、成長性のみならず不透明な環境下におけるディフェンシブ性も期待されているのだろう。
2位の自動車および自動車部品は、景気後退の局面においてやや意外な結果といえるが、これについては「とある銘柄」が悪さをしているだけであまり参考にならないかもしれない。察しの良い方は気づいたと思うが、犯人は「TESLA」で、年始の急反発だけでセクター全体を押し上げてしまっている。ただし、TESLAが極端であるとはいえ、自動車銘柄が買われていることは事実なので、世界の自動車需要の増大に自信があれば関連銘柄を物色してみるものいいかもしれない。
それ以下は、旅行・レジャー、メディア、小売といった内需関連のど真ん中の業種が並ぶ。やはり、大枠としては景気後退への警戒感が強く、その中で残存する成長分野へと資金が流れ込んでいるのだろう。特に旅行・レジャーは、依然としてリオープンが息の長いテーマになりうることを示唆しているのかもしれない。
一応、下位業種についても軽く触れると、1位は言うまでもなく銀行だ。保険や金融サービスなどの金融全般の低調さが目立っており、やはり地銀の連鎖破綻とその波及懸念は市場の大きな混乱要因となっているようだ。エネルギーは、コロナ禍におけるバブル的な上昇の反動と景気後退懸念の流れを考慮すれば、足元でパフォーマンスが低迷するのも納得といったところか。
そして、参考までに首位のテクノロジーについて、具体的に個別銘柄の顔ぶれを見てみたい。
図:米国テクノロジーセクターの年初来騰落率上位10銘柄
出所:Refinitiv Datastream
1位は、もはや時代の寵児ともいえるNVIDIAだ。ChatGPTの技術革新による半導体需要の増加で、年初来で時価総額は倍近くに膨れ上がっている。それ以外にも、4位のADVANCED MICRO DEVICES(AMD)や7位のON SEMICONDUCTOR(オンセミ)、10位のLAM RESEARCHなど、半導体関連の銘柄の名前が目立つ。日本では、一部の半導体関連銘柄の業績の下方修正が話題となり、投資リスクの高まりが指摘されているが、日本の5ヵ月先を行く米国では、半導体株は景気後退懸念が高まる中で逆に市場のけん引役となっているようだ。3位のセールスフォースは、人材不足やインフレに伴って高騰する人件費などで、クラウドベースの業務改革への需要が高まっているのかもしれない。
そして、最終的にこれをどのように日本株へと応用していくべきかだが、日本株が米国株に遅行するという前提で、シンプルに前述の米国株の上位業種に該当し、かつ現状の業績予想が強い銘柄を選定すればいいだろう。参考までに、米国株の年初来上位3業種を東証プライム上場銘柄に当てはめ、コンセンサス予想純利益成長率の順に20銘柄ずつピックアップしたものを掲載しておく。
図:テクノロジー 予想純利益成長率上位20銘柄
図:自動車・自動車部品 予想純利益成長率上位20銘柄
図:旅行・レジャー 予想純利益成長率上位20銘柄