【QUICK Market Eyes 中田真裕】コロナ禍が明けて金融の街・兜町には活気溢れる夏の風物詩が戻ってきた。日本取引所グループの東京証券取引所は小中学生を対象に「シェア先生の親子経済教室」を8月14日に開いた。自分たちの暮らしと経済や株式の結びつきを学び、東証内の見学、株式の模擬売買の体験ができる。貯蓄から投資へという時代になりつつあるなか、未来の投資家の誕生のきっかけになりそうだ。
前半は経済の動きや株式会社の仕組みをテーマに約1時間の講義を受けた。「コンビニでお茶を買った場合、あなたが支払ったお金は誰の手元に届くでしょうか」という問いに「卸売会社」「税金」と緊張しながら応える参加者。その後は株式会社の「社長」や「株主」となり、株式会社の仕組みをロールプレイ方式で学ぶ。積極的にメモを取ったりうなずいたりする親子の姿が見られた。
その後はかつての株式の立会場でもあった「東証Arrows」を見学した。上場会社や現在の株価が表示される「チッカー」の様子に驚く姿や企業が上場時に打鐘する鐘の前で記念写真を撮る姿がみられた。
一番の盛り上がりを見せたのは株式売買の模擬体験だ。タブレット端末で自動車会社や銀行といった銘柄を模擬売買し、制限時間内で資産総額をどれだけ増やせるかを競う。景気動向や為替、金融政策のニュースと株価の動きを見ながら売買する。本物の投資家さながらに売買を繰り返す様子もみられたが、むしろ親御さんのほうが真剣だった。
埼玉県から参加した中学生(13歳)は「模擬売買では自分が思った以上に株価が上昇することもあった」と笑顔を見せた。一方、「経済って難しいんだなと感じた」とポツリ。東京都から参加した中学生(12歳)の母親は「もう貯蓄の時代ではないと感じるため子供には若いうちから投資に触れてもらいたいと思い参加した」と話した。
「親子経済教室」は2004年から続く東証の夏の恒例行事だ。日本取引所グループは幅広い世代への正確な金融知識を提供するのを目標に数々のイベントやセミナーなどを実施している。金融リテラシーサポート部の鈴木深氏は「『親子経済教室』は企業の社会的責任(CSR)活動の一環として取り組んできた」と説明する。加えて「金融リテラシーの向上に一層繋げていきたいと考えている」と意気込む。
中学校や高等学校ではすでに金融経済教育が始まり、子供たちにとって株式投資や資産形成は身近なものとなりつつある。業界全体としても「金融教育」熱も高まっている。今回の夏休みを利用した「シェア先生の親子経済教室」は募集枠に対して4倍程度の応募があったという。
東証は新型コロナウイルスの流行で休止していた自由見学を今年7月に再開した。随時、株式の模擬体験の予約も可能だ。株の街兜町には昔ながらの建築美が残る証券会社の建物があり、「資本主義の父」と知られ新しい1万円札の肖像画にもなる渋沢栄一氏ゆかりの地でもある。残り少ない夏休み、兜町を訪れて自由研究に「投資」を取り上げてみてはいかがだろうか。