「デジタル経済を無視しているのが興味深い。アップルは家電会社と考えている」。スタートアップIT企業に投資するハマー・ウィンブラッド・ベンチャー・パートナーズの共同創業者は投資会社バークシャー・ハザウェイの年次株主総会の印象を米CNBCに語った。
ネブラスカ州オマハで4日開催された、著名投資家ウォーレン・バフェット氏の率いるバークシャーの株主総会。CNBCが生中継した会場のセットアップは昨年と変わらなかったが、ステージは寂しかった。バフェット氏の盟友、チャーリー・マンガー氏が昨年11月に99歳で死去。ウイットに富んだマンガー氏のコメントは聞けず、「チャーリーならこう言った」を繰り返すバフェット氏の発言がその存在の大きさを物語っていた。高齢を感じさせない立ち振る舞いだったが、バフェット氏は「来たる日」を意識していることを滲ませた。「4年後にどうなっているかわからない」と強調した。
非保険事業担当のグレッグ・アベル副会長をバフェット氏退任後の最高経営責任者(CEO)に指名。バフェット氏がアベル氏を故マンガー氏と間違えて発言する場面があり、隣に座ったアベル氏は「光栄です」と反応した。アベル氏はカナダ生まれ。勤めていたカナダの電力会社を1999年にバークシャーが買収、バフェット氏との縁がはじまった。規模の大きい保険事業担当でインド出身のアジット・ジェイン副会長の役割も拡大する見通し。アベル氏とジェイン氏について、自身の退任後に「バークシャーを率いるのにふさわしい人物であることを証明した」とバフェット氏は述べた。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、バフェット氏の引退後にアベル氏が投資を最終決定するとして役割を明確にしたと報じた。アベル氏が投資運用を直接指揮するのか、投資を部下に任せることを望んでいるのか明確ではないとしている。CNBCは、主要な投資を主導したバフェット氏がいないバークシャーが過去と同じように長期的な視点で企業評価するか投資家は判断しかねていると伝えた。
総会にはアップルのクックCEOも出席した。バークシャーは第1四半期(1~3月)にアップル株を追加売却した。バフェット氏は、売却益の増税見通しを考慮したもので、アップルへの評価は変わっていないと説明。投資の主体は米国企業と明言、「アベル氏が引き継いでも、異例のことがない限り、アップル、アメリカン・エキスプレス、コカ・コーラの保有を続ける」と語った。5年前からの日本の商社株取得は「説得力があった」と述べると同時に、カナダ企業の投資を検討していることを明らかにした。
注目を集めたのは人工知能(AI)をめぐる発言。株主からの質問に答えたバフェット氏は、妻と子供がフェイクと疑わないほど精巧な自身の偽画像と声を発見したと指摘、悪用した詐欺が「空前の成長産業になる」と皮肉を交えて警鐘を鳴らした。アベル氏は、バークシャーが効率向上のため一部の事業にAIを導入したと明らかにしたが、バフェット氏はAIについて「何も分からない」と語った。バフェット氏は「分からないものに投資しない」ことで知られ、幅広い投資家が注目する主力の「AI関連銘柄」は現在のポートフォリオにない。
バフェット氏の投資哲学に共感し、父親と同時に株主になった娘は成人になった。バークシャーの株主総会は長期保有する株主で満員だった。バフェット氏は8月で94歳。後継者に指名されたアベル氏は6月1日に62歳。AIの影響力は拡大、デジタル経済のさらなる進化が確実ななかで、現金と米短期債の計30兆円近い手元資金を持つバークシャーは今後どう成長するか。「オマハの賢人」「投資の神様」と呼ばれるバフェット氏の哲学は引き継がれるのか。株主の最大の関心といえる。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。