金子 正幸 氏
HSBCアセットマネジメント 代表取締役社長
インド政府は、今年2月に暫定予算案を発表した。インフラ部門に重点を置くことを改めて表明し、強力なインフラ支出を提案した。これは、主要インフラおよび関連セクターの企業の見通しにプラスの影響を与えると予想される。
インドは、2030年までの7会計年度で、インフラ整備に1兆7,200億米ドル近くを費やす予定で、これは2017年度からの7会計年度に費やされた8,000億米ドルの2倍以上になる。実のところ、インドは世界で最も急速に経済成長している国の一つで、2027年までには世界第3位の経済大国になる道を歩んでおり、成長に対するインフラの役割は極めて重要である。
インドの国内総生産(GDP)成長率は、今後数年間6%以上を維持し、他の先進国や新興国をリードすると予想されているが、インドでは近年、インフラが驚異的な成長を遂げている。インフラは、インドを2027年までに5兆米ドル規模の経済大国に成長させるエンジンの一つとなるだろう。
政府によるインフラ整備への大規模投資
物的インフラは、2019年以降、GDPに対する設備投資額が倍増した政府の設備投資に支えられ、大幅に拡大している。2024年度では、設備投資の対GDP比は、過去9年間で最高の3%超に達すると予想されている。政府はインフラ整備に重点を置いており、その支出は2020年度から2024年度の間に3倍に伸び、10兆インドルピーを超えた。新型コロナウイルス感染症に関連する社会的影響にもかかわらず、設備投資の予算は急増し、インドの物的インフラの大幅な拡大を促進している。インドの国家インフラ・パイプライン(NIP)では、交通インフラとエネルギー開発を支援するプロジェクトが投資額にて最大の割合を占めている。
交通インフラ
インドの鉄道への資本支出は、2023年から24年にかけて290億米ドルとなり、2013年から14年の9倍に大きく増加した。インドの鉄道は世界第4位の規模を誇り、路線の総延長は10万4,647km、毎日13,523本の旅客列車と9,146本の貨物列車が運行されている。貨物列車による輸送の割合を45%まで高めるため、1,610kmを超える鉄道貨物専用区間が発注され、すでに1,033kmが建設中である。
鉄道とは別に、幹線道路の開発も陸上輸送のもう一つの重点分野である。2023年度に新たに追加された幹線道路プロジェクトは、金額ベースにて過去23年間で最高となった。2023~24年度予算案で、政府は道路交通省に330億米ドルを割り当てている。今年度、インドでは約1万4,000kmの幹線道路が新規プロジェクトとして追加される見込みである。現在、202路線の国道、6,270kmが建設中である。
インドは、世界第3位の国内航空市場である。過去10年間、堅調な成長が見られたが、これは2016年に開始された地域接続スキームUDANなどの政府の取り組みによるもので、このスキームの下、74カ所の空港を結ぶ469路線が運航を開始した。2023~24年度予算案では、国内の地域間の空路の接続を改善するため、50カ所の空港、ヘリポート、水上飛行場、前線着陸場を新たに建設することが発表されている。
エネルギー
再生可能エネルギーの生産能力の追加は、2017年度以降、他の電力源の合計を上回っている。再生可能エネルギー分野を全国に拡大するため、インド政府は2030年までに再生可能エネルギー450GWを含む500GWの非化石燃料の目標を発表した。この目標の下、再生可能エネルギーの全発電能力に対する割合は、2023年度の30%から、2030年度には46%に達する見込みである。
出所:インド国家予算案、2024年2月
インドのインフラは無視できない機会を示している
インドのインフラ整備は、農村部と都市部の格差を縮める上で極めて重要な役割を果たす。農村部のインフラを改善することで、農業の生産性を高め、市場、医療、教育へのアクセスを向上させ、貧困を減らすことができる。さらに、インフラ整備は持続可能な成長にとって極めて重要である。太陽光発電や風力発電設備など、再生可能エネルギーのインフラ整備に力を入れているインドは、化石燃料への依存度を下げるだけでなく、環境の持続可能性にも貢献している。近代化された港湾、空港、交通網を通じた接続性の強化は、他の国々との貿易や経済関係を推進することができる。
インド政府のインフラ整備と支出に対する注力は、民間の資本支出の増加と相まって、インフラ分野と関連セクターの企業に恩恵をもたらし、さまざまな投資機会を提供するだろう。さらに、住宅、鉄道および鉄道関連分野、道路、水路、都市インフラを含めた従来の分野と新たな分野における成長とインフラ投資を強化する計画は、資本財、建設・エンジニアリング企業、製造業、電力会社を含むがこれらに限定されないセクターに直接的または間接的に利益をもたらすだろう。
官民パートナーシップは、インフラの成長をさらに加速させるだろう。景気循環セクターは、穏やかな水準にある金利や良好な投資サイクルなどの要因に牽引され、力強い回復を見せている。インフラ部門は、景気回復サイクルにおいて平均を上回るパフォーマンスを発揮する潜在力を秘めている。例えば、NSE Niftyインフラ指数は、2023年にSENSEX指数を20%上回った。インフラ支出拡大へのより一層の注力と、基本的なインフラニーズに応えるためにインドの接続性をより効果的にする必要性から、このテーマは無視できない投資テーマである。