創業100年を超える老舗の繊維メーカー、近藤紡績所(名古屋市)。代表取締役社長を務める近藤大揮氏は、相場師として名をはせた近藤信男氏を祖父に持つ。本業のほかに資産運用事業を展開し、不動産部門では国内オフィスビル・商業施設のみならず、米ワシントンDCに連邦政府や造幣局が入居するビルを所有するなど、その資産規模には圧倒される。最近では国内スタートアップ企業への投資を積極的に行う。スタートアップ投資について近藤氏に話を聞いた。
――スタートアップ企業にはどのくらい投資していますか。
「スタートアップ企業には20件ほど直接投資させていただいている。プライベートアセット(未公開資産)経由で投資する案件も含めると50件程度。直接投資は1件あたり5億円がめどだが、世の中に必要なビジネスだと感じた場合には上乗せすることもある」
「以前からベンチャーキャピタル(VC)ファンドや私募ファンドに投資しているが、自分たちで技術トレンドや投資先の選別方法などについて習熟したいと考え、数年前から直接投資の規模を拡大してきた」
――スタートアップ投資をする目的は何ですか。
「ただもうかればいいという考えでは投資しない。力を入れる理由はふたつある。ひとつは投資先企業の関係者や他の投資家などと良いご縁をいただき、最先端の技術や投資に対する考え方を享受するためだ。そこで得た知見を本業の繊維ビジネスに生かすこともできる」
「もうひとつは繊維ビジネスを中長期的に維持・発展させるための資金を確保するためだ。国内の繊維事業は長らく停滞している。しかし、日本は良質な生地を作れる世界でも有数の国で、この技術力を活用しない手はない。我々は『シーアイランド・コットン』などの付加価値の高い綿製品にこだわるが、常に技術的チャレンジを続け、ブランドビジネスに昇華させるためにはそれなりの研究開発費が必要となる」
――出資の判断基準を教えてください。
「一番大切なのは経営者がビジネスに対して情熱を持っているか、ビジョンを成し遂げたいという思いがあるかどうかだ。ビジネスを金儲けの手段として捉えている経営者もおり、資質を見極めるのが大事だ」
「直感的に面白いと感じ、世の中から求められたり、社会課題の解決につながったりする新しい価値を生み出すビジネスに協力させていただく。これらが軌道に乗れば社会貢献にもつながる。はやりのビジネスを手掛ける企業に出資すれば2倍、3倍程度の収益を得ることもあるだろうが、未開の地に踏み込むことで結果的に10倍、100倍のリターンが狙えるのではないか」
「ものづくりは物理や化学の不変的な法則からは逃れられない。この考えのもと、電気自動車(EV)関連ビジネスにはほとんど出資してこなかった。なぜなら半導体のように微細化や積層化によって技術が指数関数的に伸びる世界とは違い、電池の性能やエネルギー効率が飛躍的に向上するとは考えられなかったからだ」
――どんな会社に出資していますか。
「生体適合性が高い人工硬膜などを製造する『多磨バイオ』(東京都武蔵野市)、改ざん防止のデジタル証明技術に強みを持つ『リーテックス』(東京・新宿)、金融取引セキュリティー技術開発の『GVE』(東京・中央)など未公開のスタートアップ企業に出資させていただいている。いずれの経営者も世界を大きく発展させようという熱意を持ち、社会課題の解決につながるビジネスモデルを構築している」
「出資の可否はビジネスモデルの説明を受けたら即断する。全ての案件が成功するとは思っていない。リスク・リワード(リスク対比の運用収益)が良好だと判断した場合には大胆に出資するスタンスでのぞんでいる」