QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。※本記事は2015年12月18日にQUICK端末で配信した記事です。
”黒馬の騎士”日月光vs”白馬の騎士”清華紫光、攻防戦の行方は?
台湾をターゲットにした半導体企業のM&A(買収・合併)がいくどとなく山場を迎えている。10月に力成科技(コード@6239/TW)の株式25%取得を突如決めた中国大陸の清華紫光グループが、続いて12月11日にセキ品精密工業(コード@2325/TW)の株式取得を決定した。同社株式24.9%を1株当たり55台湾ドルで取得する。同グループは、さらに巨額資金を投じて南茂科技(コード@8150/TW)の株式25%を取得する。買収額は1株当たり40台湾ドル。3社への合計出資額は882億元に達し、同社の大胆な挙動が半導体市場を揺るがした。
中でも、セキ品精密への出資は568億台湾ドルの巨額とあって、注目を集めている。セキ品精密の林文伯董事長は今回の決定を中国との提携だと、対外的に説明した。取得資金のうち80%を台湾の生産能力拡充に、20%を江蘇省蘇州市の工場拡張に用いるという。
もっとも、セキ品精密は紫光グループに株式24.9%を譲渡して筆頭株主とする際に第三者割当増資の形式を取る。これに伴い、日月光半導体製造(コード@2311/TW)のセキ品精密の持ち株比率はわずか18%にまで低下することになる。明らかに、セキ品精密は紫光グループを自社の経営権を護衛する「白馬の騎士」とすることで、日月光が経営への介入を強めることに対抗しようとしたのだ。
日月光、敵対的買収から一転、友好的買収を提示へ
台湾の半導体業界の関係者は、セキ品精密の林董事長が紫光グループの出資を今回引き入れることにしたのは、同グループがセキ品精密の株主に有利な額を提示したほか、同社の経営権に干渉しないとしたためだと分析する。囲碁を得意とする林董事長が見事な一手を打ったというわけだ。しかし、世間では激しい反中感情が巻き起こり、台湾で数十年間の月日をかけて苦労して築き上げた半導体パッケージングテスト業のサプライチェーンを林董事長はいたずらに中国へ差し出すべきではないとの認識が広がった。
一方、苦労して進めてきた計画を紫光グループに台無しにされた日月光は、そのまま泣き寝入りするようなことはしなかった。3日後の12月14日、1株当たり55台湾ドルでセキ品精密の株式100%を完全取得するという友好的買収提案を同社の取締役会に突如提示。台湾の産業の国際競争力を擁護するなどといった大義を掲げ、両社が先入観を捨てて買収案で合意することを希望すると発表した。また、既存の会社制度、全取締役、全経営陣を維持し、従業員の利益を守り、改革は行わないと約束した。買収総額は約40億米ドル(約1313億台湾ドル)となる見通しだ。
日月光はセキ品精密に今月21日までに書面で回答するよう求めたが、セキ品精密は再度議論する必要があるとして即答を避けた。
市場は日月光の柔和路線を評価する見通し…懸念も
台湾の機関投資家は、日月光の買収案は水平統合であり株式の希薄化も起こらず、買収効果がすぐに表れると分析する。反面、セキ品精密による紫光グループの出資引き入れは増資を伴い、株式が33%希薄化する。両案を比べた場合、多くの外国投資家が日月光の買収案を支持するだろうとの見方を示した。日月光の迅速で果断な反撃には、セキ品精密の経営権を取得して半導体パッケージングテスト業トップの座を固めることへの決意がうかがえるという。
しかし、日月光によるセキ品精密の完全買収には、紫光グループによる取得価格の増額攻勢を受ける可能性やセキ品精密の取締役会での否決といった変数が依然として存在する。また、セキ品精密の株主が同意したとしても、合併に伴い世界シェアが大幅に拡大するため、各国の反トラスト法(独禁法)の厳しい審査を通らなければならない。こうした難関を順調に突破していくことができるのかどうかが注目される。