QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がレポートします。※本記事は4月6日にQUICK端末で配信された記事です。
シャープ買収劇、「4割引き」で終幕
鴻海精密工業(ホンハイ・プレシジョン・インダストリー、コード@2317/TW)とシャープ(6753)の交渉がようやく実を結んだ。鴻海とシャープの協議は3月30日に合意に達し、調印した。鴻海グループと郭台銘会長個人が合わせて3888億円(約1166億台湾ドル)を出資し、シャープの株式の66%を取得する。1株当たりに換算した株式の取得価格は88円で、ほぼ「4割引き」の価格となった。
この3888億円という出資額は、シャープが2月25日の臨時取締役会で通過させた金額より1000億円少ないものとなっている。しかし、台湾と日本の企業史で4つの「第一」を記録することになる。まず、日本の百年以上の歴史を持つ企業が、海外企業からの買収を受け入れて再建に臨むのは、初めてということ。次に、鴻海にとって創立四十数年来で最大の海外投資だ。さらに、台湾企業が日本の液晶パネル大手メーカーを買収するのは、初めて。加えて、鴻海グループの副総裁がシャープの社長に就任することになるとみられているが、日本の百年以上の歴史を持つ企業に台湾人社長が誕生すれば、これも初めてとなる。
譲歩の末の調印…債務の返還期限迫り
鴻海とシャープは4月2日、日本で契約に調印した。双方が発動することになる新しい戦略が、世界から注目を集めている。
鴻海が提示した投資企画によると、鴻海、鴻海の英領ケイマン諸島子会社FFE、鴻準精密工業(フォックスコン・テクノロジー、コード@2354/TW)のシンガポール子会社FTP、郭台銘会長が個人的に投資するSIOが、共同でシャープに約2888億1100万円を出資する。
さらに、鴻海は約999億9900万円強の戦略的投資を行い、シャープが増資として発行する議決権のない種類株1136万3636株を取得する。これは、2017年7月1日に1対100の比率で普通株に転換できる。1株当たりの転換価格は88円となる。以上の合計で今回、鴻海からシャープへの投資は3888億円となる。
鴻海としては、値引きは求めてはおらず、双方が協議によって達成した合理的な投資額だと強調している。しかし、市場の焦点は、将来鴻海がシャープに資本参加した後、どれほどの有利な立場を確保したのかに置かれている。
消息筋によると、シャープの巨額の債務が返済期限到来を迎えようとしており、資金需要が切迫している。また、鴻海グループは技術を流出させないと約束した。これによってシャープは最終的に譲歩し、出資受け入れ金額を引き下げた。同時に、調印後、もし鴻海側の原因ではなく買収が破談に終わった場合も、鴻海がシャープの液晶パネル事業を切り離して買収する権利を認めた。しかも、「従業員の雇用を維持する」という点についても、シャープは譲歩し、新条項を追加することで、鴻海がリストラを検討できるようにした。
硬直体制打破できるか…経営立て直しの試練は続く
日本のメディアの多くは、鴻海がこの百年の歴史を持つ日本企業を買収することに対して肯定的な見方を示しており、鴻海グループのスピード感ある管理スタイルおよび完成されたサプライチェーンによって、硬直化した企業に新しい生命が注入されると考えている。
台湾側でも、鴻海はシャープの極めて高度な液晶ディスプレイ技術を利用することで、最大の顧客である米アップル(コード@AAPL/U)からのスマートフォン組み立ておよび部品供給の受注を揺るぎないものとでき、同時にシャープに3C(コンシューマー・エレクトロニクス=家電、コンピューター、コミュニケーション=通信機器)分野での成長力を注入できると考えている。
しかし、この取り引きには双方の間に文化的な差異が存在している。さらに、シャープの過去2年間に及ぶ巨額の赤字をどのように黒字転換させるのか。いずれも、鴻海グループとシャープの新経営チームの知恵が試されることになる。将来、鴻海とシャープの提携には、さらに無数の挑戦が待ち構えていると思われ、それをどう乗り越えていくのか注目したいところだ。