「ビットコインに再分裂の火種がくすぶっている」。こう指摘するのは公益財団法人国際通貨研究所の志波和幸主任研究員だ。8月の分裂騒動を機に取り決められた事案が守られず、一部の関係者の間で不満が生じているという。
8月のビットコインの分裂騒動が持ち上がった背景には、取引増加にシステムが対応できず、ビジネスの収益機会を逃していることに関係者が不満を抱えていたことがあると、志波氏は説明する。この不満を解消するため、A案とB案が提示されたが決まらず、最終的に折衷案が採用された。折衷案とは、急増するビットコインの取引を成立させるため、まずはデータ圧縮プログラムを導入するA案を実施し、一定期間後に処理容量を増量する(今回は1メガバイトから2メガバイトに倍増)B案を実行するという2段階の対応を指す。ビットコインの多くの関係者がこの折衷案を支持したが、一部が反対。この結果、8月2日にビットコインからビットコインキャッシュが分裂・誕生した。
その後、ビットコインについてはA案まで実行されたが、それと同時にB案のプログラムをあらかじめ導入したサーバーを開発関係者がビットコインシステムにアクセスできないようにした。容量の引き上げは11月半ばを予定していたため、当初から「折衷案」を支持していたグループの主導のもと、その時期が近づくにつれ再び分裂騒動が高まるかもしれないと志波氏は予想する。「実際に一部の取引所からも不満の声が上がっている」(志波氏)という。
なお、国内の大手取引所ビットフライヤー(東京・港)によると、1ビットコインあたりの価格は9月4日時点で52万円を挟んで推移し、分裂後に約8割上昇している。ただ、志波氏は「外国為替とは異なり、ビットコインの理論値を算出する方法が現時点で見いだされておらず、割安なのか割高なのか判断することは難しい。一方、8月に分裂したビットコインキャッシュの流通を促している関係者は、その利便性などの説明責任を充分に果たしていない」と指摘する。
公益財団法人国際通貨研究所 志波和幸 主任研究員
<プロフィール>
1969年東京生まれ。 東京大学経済学部卒業。
1992年三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)入行後、
国内外営業及び融資審査、ディーリング業務、持株
会社(三菱UFJフィナンシャルホールディングス)
で信用リスク管理業務に従事。2016年2月より現職。