大統領選を7月1日に控えたメキシコで通貨ペソの対ドル相場が安い水準に沈んでいる。勝利が確実視される候補はアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール(通称・アムロ)氏で、金融市場では彼が政権を握れば財政悪化は避けられないとの見方が広がっている。このため選挙後にペソ安が再加速するとの予想が一段と強まっている。
28日の外国為替市場でメキシコ・ペソは1ドル=20ペソ台前半と、6月半ばにつけた年初来安値である21ペソ前後に近い水準で低迷する。大統領選では「投票締め切り直後の出口調査の段階でアムロ氏の勝利がほぼ確定する」との予想があるなど支持が拡大している。同時に行う議会選挙は接戦の見通しが多いが、新政権では「ペニャニエト現政権が進めてきた規制緩和や砂糖含有飲料などへの課税といった健全な財政を維持するための改革はトーンダウンする」(SMBC日興証券の平山広太・新興国担当シニアエコノミスト)のは避けられなさそう。平山氏は「メキシコペソは対ドルで年初来安値を更新し、さらに下げが加速しかねない」と予想する。
メキシコシティ市長を務めたアムロ氏は、貧困対策をはじめポピュリズム(大衆迎合主義)的なばらまき政策を掲げる。投資家が懸念しているのはその財源だ。同氏は公共事業の削減などで資金を捻出する考えとみられるが、それでは安定的な財源にはなりにくい。
外貨の獲得源の1つだった原油については、国営石油会社ペメックスの経営不振で生産量が減り続けている。原油の国際価格は上昇しているが「メキシコの歳入増へ寄与するとは考えにくい」(みずほ総合研究所の西川珠子上席主任エコノミスト)のが現状だ。トランプ米大統領が自動車への追加関税を発動すれば、車の対米輸出が多いメキシコには打撃となる。
メキシコ中銀はペソ安に歯止めをかけるため、21日に政策金利を引き上げた。「アムロ氏は中銀の独立性を尊重する姿勢」(みずほ総研の西川氏)とされる。エルドアン大統領が景気刺激のために中央銀行への統制強化を示唆してリラ安を招いたトルコの二の舞いにはならないとの見方は多い。メキシコの経常赤字は対国内総生産(GDP)で2017年は1%台にとどまり、急激な資金流出は避けられそうだ。
それでも、今後予想される財政拡大に伴い経常収支も悪化が進めば、中銀が利上げで対抗してもペソ安に歯止めをかけるのは難しくなる。新大統領の就任は12月1日の予定とまだ先だ。メキシコを巡って投資家が抱く不透明感は長期的に続きそうで、ペソ相場の浮上は見込みにくくなっている。
【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】
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