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アナリストは市場の羅針盤たれ by 海津政信氏 (シリーズ:ベテランに聞く)

市場の荒波を乗り越えてきた大ベテランたちに、これからの相場との向き合い方を尋ねる「ベテランに聞く」。野村証券金融経済研究所の海津政信シニア・リサーチ・フェロー兼アドバイザーは、企業アナリストの経験が豊富で、その後、日本株ストラテジストとしても活躍した。アナリストの役割として「正しい値付けがおこなわれるよう『市場の羅針盤』としての機能を果たすことだ」と話す。そのためには「論理的な理由付けをもとに、適切な投資判断を示すことが必要だ」と指摘する。【聞き手は日経QUICKニュース(NQN) 北原佑樹】

海津政信(かいづ・まさのぶ)
1975年、横浜市立大学商学部卒業後、野村総合研究所入社。建設、住宅・不動産、家電・電子部品、機械担当のアナリストを経て、日本株ストラテジスト。2002年野村証券金融研究所所長、12年1月より現職

■論理的な理由付けで適切な投資判断

市場にはその時々に応じて適切な投資判断があり、そのためには論理的な理由付けが必要だ。一貫して強気とか弱気ということはあり得ない。政治と経済、産業、マーケットの4つの側面を意識して、多面的に検討することが望ましい。

アナリストだからといって株式相場ばかりを見ていては仕事は出来ない。特に政治をみる力は重要だ。政治やマクロの情報には株式市場のようなインサイダー規制がない。人脈を作り、情報収集力や分析力を高めれば、アナリストの競争力になる。

例えば、今年9月の日米の閣僚級貿易協議(FFR)で、自動車関税を回避できると私が確信した時の判断材料は3つある。まず、内閣府が公表した安倍晋三首相とトランプ米大統領の夕食会の写真で、両首脳が打ち解けた雰囲気で写っていた。トランプ氏は表情に出やすいので、この雰囲気なら会談はうまくいったと思えた。次は霞が関への電話。ある官僚は「もし貿易協議で自動車関税25%が決まっていたら、今ごろ霞が関は大騒ぎだ」と話した。また、日米の貿易摩擦の影響が軽いとされて買われていたスズキ株が下落したことで、関税回避の可能性が高まったサインとみた。材料を多面的に集めて総合的に判断する。こうした視点が欠かせない。

世の中のムードに流されない冷静さも必要だ。2000年2月のインターネットバブル絶頂期、私はヤフー株に慎重な見方を示した。インターネットが世の中の仕組みを大きく変えることは予想していたが、広告市場の全てがインターネット広告になったとしても、PERが70倍から80倍の水準にあるのは割高だと判断したからだ。

■若手アナリストは仮説検証力を鍛え、企業経営に助言を

「市場の羅針盤」としてのアナリストの役割は今も昔も変わらない。これからのアナリストは、今まで以上に仮説を立て、検証する力が求められる。上場企業に公平な情報開示を義務付ける「フェア・ディスクロージャー・ルール」の下では、情報を得る機会が限られるからだ。

私は研究所所長時代に「事前に仮説を立てて決算説明会に参加し、疑問点を企業にぶつけ、説明会が終わった時点でその企業の数年先の1株当たり利益(EPS)をイメージできるようにしなさい」と部下に指導した。このような取り組みが、アナリストの競争力を高めると考える。若手のアナリストにはぜひ、企業経営に助言する力を付けてもらいたい。アナリストの視点で見ると、企業の課題が見えてくるはずだ。

■2028年、日経平均は3万8900円を取り戻す

日経平均が今年1月に26年ぶりの高値を付けたのは、日本企業が稼ぐ力を取り戻したからだ。非製造業が大きく成長し、主力の製造業も回復した。ただ、米国発の景気後退で2020年ころに日経平均は踊り場に入る公算が大きい。19年9月で米国の利上げがいったん終わると、為替が円高・ドル安に振れる。企業収益が伸び悩み、日経平均は2万~2万5000円のレンジ相場が1~2年続くだろう。その後、景気は再び拡大し、28年には利益水準から換算して日経平均株価はバブル期の水準である3万8900円まで上昇するとみる。

そのための条件は2つだ。1つ目は日本企業がデジタル革命に真っ向から取り組み、克服していくことだ。電気自動車(EV)や自動運転、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」など世界のデジタル化に応じて、ビジネスモデルを柔軟に変化させる必要があるだろう。2つ目は日本の個人の金融資産約1800兆円をもとに運用収益を高め、きちんと消費に回していくことだ。

(随時掲載)


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