日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)は企業の景況感の変化を知る上で貴重なデータだが、株式相場の先行きを占う手掛かりとしては不十分――。そう感じている投資家は少なくないだろう。そこで、いまのような景気の変調期に役立つ裏技を紹介する。最近の業況判断が、前回見通しからどの程度ズレが生じたかを示す「サプライズ度(変化幅)」だ。
短観では約1万社の企業に、調査項目の1つとして業況に関する「最近」(足元実績)と3カ月後の見通しである「先行き」の2種類について質問し、それぞれの結果を集計、DIという指標に加工する。
◆3ヵ月前の「先行き」と今回発表の「最近」の差に注目
結果は通常、最近と先行きを分けて解説されることが多い。例えば「足元の景況感は良好だが、先行きは悪化が見込まれる」などという表現になる。しかし、先行きについては全体としては慎重となる傾向が強い。業種別では、好調な業種ほど慎重な予想をし、不調な業種ほど楽観的な予想をする傾向がある。そのため、紋切り型の評価では相場予想には使いにくい。こうした欠点を補うのが「サプライズ度」だ。これは、新しく発表された「最近」の数字から、前回発表の「先行き」の数字を差し引いて計算する。前回調査の「先行き」と今回調査の「最近」は対象時期が同じなので、見通しと結果がどう変わったかを確認できるわけだ。昨年12月調査を例にとると、大企業製造業の業況判断DIは最近が19で、前回9月調査の先行きも同じく19だったので、サプライズ度はゼロとなる。
横軸(DI)だけでなく縦軸(サプライズ度)も注目しよう
※色付きは直近4回の日銀短観
「縦の動きに注目せよ」。長年、短観を分析しているスフィンクス・インベストメント・リサーチの別府浩一郎氏は、サプライズ度を利用するコツをこう話す。横軸を最近のDI、縦軸をサプライズ度として、各調査の結果をグラフに点描すると、横軸の数値の変化は小さくても、縦軸のサプライズ度が大きく悪化するようなケースがある。これは、何らかの不測の事態が発生し、企業の業況見通しが大きく外れたことを意味する。
◆足元実績が慎重な見通しをさらに下回る状態
大企業製造業の業況判断について1990年から前回までのデータを検証したところ、最近のDIがゼロ以上で、かつサプライズ度がマイナスとなったのは過去13回あった。この13回について短観発表直前から次回発表までの約3カ月間の日経平均株価の騰落率を調べると、8回は下落し、平均下落率は11%だった。サプライズ度を確認してから売りに回っても一定の成果を得られる可能性が高いことが分かる。今月1日発表の短観(3月調査)は、大企業製造業の「最近」が12。前回の昨年12月調査の「先行き」は15だったので、サプライズ度はマイナス3だった。前回調査の「最近」は19で、先行きへの慎重な見通しをさらに下回ったわけだ。近く発表される主要企業の2020年3月期業績予想は投資家の想定を大きく下回る可能性がある点に注意が必要だ。
〔日経QUICKニュース(NQN)
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。