NQNシンガポール=村田菜々子
インドの通貨ルピーが軟調だ。26日の外国為替市場で一時1米ドル=72ルピー台に下落し、昨年12月以来8カ月ぶりの安値を付けた。8月の下落率は4%を超える。米中対立の激化を受けたリスク回避の売りや株式市場からの資金流出に加え、中国・人民元安の波及がルピーの下落につながったとの指摘が市場から出る。通貨安基調が続けばインド当局が大胆な財政・金融政策に動きにくくなりそうだ。
米中対立の激化などを背景に主要なアジア新興国通貨は軒並み軟調だが、なかでもルピーはここ1カ月間で最も下げた。原因の1つは、11年半ぶり安値圏に下落している人民元との連動だ。経済の内需依存度が高いインドは、一般的に中国経済の動向から受ける影響は相対的に小さい。しかし、ここ3カ月間の対ドル相場をみると、ルピーと人民元の相関係数は0.9台と極めて高い。中国と経済的なつながりが深いオーストラリアドルをも上回る。
人民元とインドルピーの奇妙な相関はどこからくるのか。謎を解くカギは両国の貿易にある。
JPモルガンは8月中旬に発行したリポートで「2014年以降のインドの貿易収支の悪化の半分が、対中赤字によるもの」と指摘。ルピーの対元での実質為替レートの上昇による輸出競争力の低下が原因の1つとみる。「(貿易赤字を抑制したい)インド当局は1元=10ルピーを超えるルピーの上昇を避けたいとみられる」と述べ、その上限に近づくと人民元の対主要通貨での下落にルピーも追随しやすいとの見解を示した。
インド政府は23日に追加の景気刺激策を明らかにし、一部海外投資家への課税免除も発表した。インド株式市場では7月発表の予算案への失望をきっかけに、7月から8月23日までの2カ月弱で2452億ルピー(約3600億円)の海外資金が流出していた。この流れに歯止めがかかれば、ルピー安要因の1つが解消されそうだ。ただ、経済対策の発表を受けた26日のインド市場では政策期待で株高が進んだ一方、ルピーは相変わらず安いままだった。
経済成長率が5年ぶりの低水準に落ち込むなか、インド当局は景気を全力で支える姿勢を鮮明にしている。インド準備銀行(中央銀行)は2月に世界的な「利下げドミノ」の先陣を切るなど今年4回すべての金融政策決定会合で利下げを決め、政策金利を合計1.1%引き下げた。なおも市場では「続く1~2会合で0.25~0.40%の利下げを決める」(インドのイエス銀行)など、追加利下げを予想する声が多い。
本来、利下げは通貨安要因だが、7月ごろまでは利下げを続けても対ドルのルピー相場は堅調だった。ただ、ここにきて元安につられやすくなっていることを考慮すれば、よりルピー安が加速しやすい地合いが整っているといえる。
ルピーの下落が続き、外貨建て債務の負担拡大やインフレのリスクが浮上してくれば、国内の経済・物価動向だけを考慮した大胆な景気刺激策のハードルは高くなる。米中対立の激化で人民元の先安観はいっそう強まっており、このままルピーが歩調を合わせれば、昨年10月に付けた過去最安値(1ドル=74ルピー台)も視野に入る。
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