外国為替市場で米ドル安傾向が続いている。今回のドル安は米金融緩和政策の長期化観測とともに香港などを巡る米中の政治的対立が世界を揺るがしかねないとの懸念が背景にある。それだけに経済基盤の弱い国の通貨はドル売りの対象になりにくく、トルコリラは逆に過去最安値圏まで売り込まれた。アジアでもインドネシアルピアやインドルピーの上値が重いなど選別色が濃くなっている。
■高値を付ける通貨
ドル安は主に欧州やオセアニアの通貨に対して先行してきた。前日はスイスフランが1ドル=0.9000スイスフランの節目を試し、2015年1月に起きたスイスフランショック以降は手が届かなくなっていた0.8フラン台が間近に迫る。経常黒字体質で永世中立国でもあるスイスのフランは「安全通貨」の代表格。さらに実物資産の金の需要は強いままで、「デジタルゴールド」の異名を取り戻したビットコインは1年ぶりに1ビットコイン=1万2000ドルを超えた。
東南アジアではフィリピンペソのように数年ぶりの高値を付ける通貨がみられるほか、シンガポールドルは20年1月以来の水準となる1ドル=1.36シンガポールドル台前半まで値を上げた。一方、インドネシアルピアは6月の直近高値である1万4000ルピア前後が遠い。足元では1万4700ルピア近辺でもみ合っている。
■脆弱なルピアやルピー、外貨準備が安全網に
インドネシアやインドは財政赤字の大きさが常に警戒されている。インドネシアは政府の資金調達を中央銀行が支援する「財政ファイナンス」に足を踏み入れた。国家の信用リスクを意識すれば通貨の買い持ちにはなかなか動けない。
ではルピアやインドのルピーは「次のトルコリラ」になるのか。事はそう単純ではない。
アジアでは為替介入が重要な政策ツールとなっている国が少なくない。ドル安の圧力がかかっているときには通貨高による輸出への悪影響を避ける目的などで自国通貨売り・米ドル買い介入に動く。米ドル買い介入を増やせば外貨準備が積み上がり、今度は通貨防衛が必要になっても資金余力が高まる。投機筋の間では「ルピアの上値が重いのは中銀がドル買い介入を繰り返しているからかもしれず、うかつに売りを仕掛けると痛い目にあう」(欧州系ヘッジファンドのマネジャー)との声がある。
IGシンガポールでマーケットストラテジストを務めるパン・ジンイー氏は「アジアはテクノロジーの面などで成長余力の高い国が多い」と指摘する。日米欧の積極緩和策を受けたマネー流入でどの国も株価は安定しており、「最終的にはコロナ禍を乗り越えられる」と楽観的だ。アジアの市場参加者はインドネシアルピアやインドルピーについて、同じ文脈で「急いで売る必要のない通貨」と位置づけている。(NQNシンガポール 今晶)
<金融用語>
財政ファイナンスとは
財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を中央銀行が通貨を増発して直接引き受けること。国債のマネタイゼーション(国債の貨幣化)ともいう。日本においては、財政規律を失い悪性のインフレを引き起こす恐れがあるため、特別の事由がある場合を除いて財政法第5条により原則として禁止されている。