日経QUICKニュース(NQN)=井田正利
米中貿易協議の結果が、世界的なドル安につながるかもしれない。中国の劉鶴(リュウ・ハァ)副首相と面談した全米商工会議所の幹部は10日「為替問題で合意する可能性がある」と発言した。何らかの協定が結ばれれば、対ドルの人民元安に歯止めがかかりそうだ。人民元は「通貨バスケット制」を導入しているため、当局の意図次第ではドルが独歩安となりそうだ。
米国は8月、意図的に人民元安に誘導しているとして中国を「為替操作国」に認定して是正を求めてきた。市場では米中で通貨協定が結ばれるとすれば、元安・ドル高の阻止が目的になるとの見方が多い。シティグループ証券の高島修氏は「人民元は通貨バスケット制を導入しているため、対ドルの人民元相場だけでなくユーロ相場や円相場にも影響が出る」と指摘する。
通貨バスケット制とは自国通貨の極端な相場変動を避けるため、複数の外国通貨に連動させて自国通貨の交換レートを安定させる為替政策だ。どの通貨とどれだけ連動させるかは、相手国との貿易量などをもとに決められており、人民元の場合はドルやユーロの比率が高いとされている。
通貨バスケット制のもとで人民元に対してドルを切り下げる一方で、バスケットの水準を一定に保とうとすればドル以外の通貨であるユーロや円は上昇することになる。高島氏は「ドルに対する人民元高を志向する協定のもとでは、ユーロや円にも対ドルで上昇圧力がかかりやすい」と話す。
トランプ氏が人民元以外に対してもドル高が進んでいる現状に不満を持っているのも先行きの円高見通しを誘っている。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司氏は「仮に中国と通貨協定を結べば、日本にも同じような協定の締結を要求してくる可能性がある。そうなれば長期的に円高が進んでいくだろう」と指摘する。
11日の外国為替市場では円が対ドルで続落しているが、中国当局が参照する「バスケット」のなかで割合が高いとされるユーロは上げる場面があった。今後の協議で元安・ドル高に歯止めをかけるような協定が結ばれれば、円の対ドル相場も下支えされる公算が大きい。米中協議の進展期待を背景に下値を探っている円相場だが、下落基調は長続きしないかもしれない。
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