個人株主づくりは、「開かれた企業」の実践の一つ
「株主優待は、個人株主とのコミュニケーションの機会ととらえています」というのは、経営企画本部 財務経理部 IRグループの仲村亮主任。カゴメの株主優待制度への取り組みは、2001年9月からと長い。そのきっかけは、経営の透明化の実現に向けた動きだ。1998年に株主総会の実施日について集中日を避けるように変更、株主が参加しやすいようにした。2000年1月に「感謝」「自然」「開かれた企業」の三つを経営のこころとした企業理念を発表、「開かれた企業」の実践の一つとして個人株主づくりの取り組みを開始した。
そこで2001年に「株主10万人構想」を発表し、「ファン株主」の拡大を目指す。2001年8月には単元株数を1000株から100株に変更、金融機関の持ち合い株式を売り出すことで、個人株主は着実に増加した。2005年9月末には「株主10万人構想」の目標を達成(株主106,576人)、直近の2018年6月末で株主は184,920人まで増えた。自社調査において「カゴメ商品の購入額について、個人株主は一般の人と比較して10倍以上にもなる」(仲村主任)という結果を得ている。カゴメ商品の主な消費者である個人株主を増やすことのメリットは大きい。
株主優待制度の見直しは、おおむね好意的に受け止められた
今年は株主優待制度の見直しに着手した。2019年以降、株主優待品の提供を年2回から年1回にする。一方で1回に受け取れる株主優待品を現行制度の2倍にしたことで、年間を通じてみた場合、株主の受け取る優待品の内容は維持される。18万人超の株主に株主優待品を届ける費用を抑えるとともに、社会問題化する物流業界のドライバー不足に協力する意味あいも強い。制度変更発表後の反応は気になるところだが、株主数はむしろ増加しているそうだ。既存株主の反応も、おおむね好意的だという。
優待品は、自社商品の詰め合わせで、提供する内容は、新商品・リニューアル商品のなかから選んでいる。株主優待は、商品を個人株主に知ってもらう場でもあり、トマトソースなどの食材にはレシピを付け、株主に楽しんでもらえる工夫をしている。株主優待の新制度移行は、株主優待で提供する商品の幅を広げる点でもメリットがある。「100株以上1000株未満の株主の場合、1回の株主優待品の総額が新制度で2000円相当になります。従来制度では1回に1000円相当なので、商品選択に限りがありました。選択肢が増えるため、従来制度では商品詰め合わせに入れることのできなかった高単価の商品も、今後はご紹介していく予定です」(仲村主任)という。
個人株主とのコミュニケーションづくりの工夫は続く
一方で、株主優待品の配達が年1回になると、個人株主との接点が減ってしまう。それをカバーするのが、KAGOMAIL(カゴメール)という個人株主向けのメールマガジンだ。更新は月1~2回程度、経営情報や株主限定のキャンペーン情報などを配信している。今後、個人株主向けの情報配信の主力ツールとして活用していく予定だ。
それ以外にも「当社は、個人株主との交流の機会を多く設けています。」と経営企画本部 経営企画室 広報グループの北川和正主任。株主との「対話と交流」活動として、社長と語る会・工場見学会および生鮮トマトの菜園見学会・料理教室・個人株主向け決算説明会などのイベントを開催している。1回の募集人数は多くないため、当選は狭き門だが、個人株主に企業活動を見てもらうことで、コーポレートガバナンスの観点から、「開かれた企業」としての進化につなげる意図があるという。
株主優待品のアンケートは、個人株主の意見を収集する強力なツールになっている。アンケートの回収率は11~12%で、幅広い意見が集まる。直近の株主優待アンケート(2017年末実施)によると、カゴメの株主は、中長期保有の傾向が強い。「今後カゴメの株式をどれくらいの期間、保有予定か?」という問いに対し、「10年以上」が62%、「3~10年未満」が31%という結果が出た。
その結果も踏まえ、10年以上保有の株主にオリジナル記念品を贈呈(10年を迎えた年に1回限り)という制度を新設した。「長期保有の株主優遇制度に10年という設定をする企業は、珍しいと思います。当社は、農業に根差した会社であり、品種改良など非常に時間がかかります。株主には、今後も長期視点で応援してもらいたいと考えています」(仲村主任)。
個人株主との関係づくりで相談にくる企業にはノウハウ公開
こうした活動を参考にしたいという企業は多く、個人株主との関係づくりの相談で、カゴメを訪問する企業は少なくない。「個人株主との関係をどう作っていくか、我々のノウハウがお役に立てるのであれば、前向きに協力したい」(仲村主任)という。
カゴメは、個人株主とのコミュニケーションづくりの工夫をつづけるとともに、そのノウハウを多くの企業に広げる活動にも積極的といえよう。
≪優待内容≫
割当基準日:6月末日
継続保有期間:半年以上
お届け月:10月
100株以上1,000株未満 2,000円相当の自社商品詰合せ
1,000株以上 6,000円相当の自社商品詰合せ
10年間保有 自社オリジナル記念品 (10年を迎えた年に1回限り)
※ 配当金の基準日は引き続き12月末日となる。
※ 半年以上の継続保有期間とは、割当基準日(6月末日)とその前年の12月末日に、同じ株主番号にて、連続して株主名簿に記載されていることが条件となる。
※ 10年間保有となる株主は、株主名簿上の登録日から割当基準日まで、同じ株主番号にて、連続して株主名簿に記載されていることが条件となる。
※ 当社オリジナル記念品の内容については、2019年6月までにホームページ等で案内する。
トマト加工品大手。トマトケチャップは国内市場で6割のトップシェアを有する。野菜飲料に強みを持ち、「カゴメトマトジュース」、「野菜生活100」、「野菜一日これ一本」シリーズなど強力なブランドを持つ。
食品ではトマトケチャップのほか、パスタやピザ、ハンバーグ用のソースなど幅広い商品ラインナップを展開。トマトの栽培等の事業も行う。海外進出も強化しており、トマト加工品売上高は世界3位。米国、ポルトガル、豪州等幅広い地域に進出。トマト加工品の販売のほか、種子の生産・販売、育苗事業等も手掛ける。ファン株主の育成に力を入れており、個人株主の比率が高いのが特徴。
<売上構成>(17/12期連結、外部顧客に対する売上高): 国内79%(うち加工食品74%、農5%、その他1%未満)、国際21%。
1899年、創業者が西洋野菜の栽培に着手。1903年、トマトソース(現在のトマトピューレー)、08年にトマトケチャップ、ウスターソースの製造・販売を開始。14年、愛知トマトソース製造合資会社(現同社)設立。23年、株式会社に改組。33年、トマトジュースを発売。63年、現商号に変更。
(提供:QUICK企業価値研究所)
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