QUICKコメントチーム=山口正仁
100年に一度の大変革期にあるのは、自動車部品業界も同様だ。自動運転や電動化など「CASE=Connected(つながる)、Autonomous(自動走行)、Shared(共有)、Electric(電動)」および、高度な移動サービス「MaaS=Mobility as a service、(サービスとしての移動、マース)」時代の到来は近い。パワートレイン(車の動力源)の電動化がすすみ、電気自動車(EV)が普及すれば、旧来のエンジンや吸排気・燃焼関連部品、トランスミッションやクラッチなど「不要になる自動車部品」メーカーの構造改革は不可避だ。
10月30日に「日立製作所とホンダが傘下の自動車部品メーカー4社を合併し、新会社を設立する」とのニュースが伝わり、自動車部品メーカーの再編、事業の再構築が株式市場で大きなテーマとして再浮上した。この日の取引終了後に、日立の完全子会社である日立オートモティブシステムズと、ホンダが筆頭株主のケーヒン、ショーワ、日信工業の3社合併およびスキームが正式に発表された。
「次の一手」は肩透かしだったが……
4社合併で誕生する新会社の売上高は約1兆7000億円規模で、自動車部品業界ではトヨタ自動車系のデンソー、アイシン精機に次ぐ、国内3位の売上高規模に浮上することから「次の一手」が市場関係者の関心事だった。この点で翌31日の前場・後場の自動車部品関連の銘柄で興味深い値動きがあった。
デンソーは31日午前11時10分に2019年4~9月期連結決算(国際会計基準)および業績予想修正を発表したが、構造改革や経営計画についての別資料の開示はなかった。市場では経営効率化やグループ企業の再編への期待が「肩透かし」を食らった格好となった。デンソーは決算発表直後の11時13分に、日中安値(4836円)をつけた。
デンソーの発表で連鎖反応が起きたと推測されるのが同じくトヨタ系の部品メーカー、愛三工業だ。デンソーとはことし5月に「パワートレイン領域および将来の成長領域における競争力強化に向けた検討開始で基本合意した」と発表している。両社が重複分野を統合し、連携を強化するとしており、「デンソーのパワートレイン事業における一部事業の愛三工業への譲渡を検討」「相互の連携強化のためデンソーが愛三工業への出資比率引き上げを検討」することが基本合意に盛り込まれていた。デンソーの決算発表で新規材料が出なかったことが失望につながったのか、愛三工業はデンソーの決算発表直後の11時13分に日中安値(840円)をつけている。
ところが後場、一つの発表をきっかけに風向きが変わる。
アイシンの連想で買い直されたデンソーと愛三
デンソーともにトヨタグループの中核である総合自動車部品メーカー・アイシン精機が午後1時の決算発表とともに、トランスミッションを手掛けるアイシン・エィ・ダブリュとの経営統合を発表。情報周知のため東証はアイシン精機株式の売買取引を一時停止した。経営統合は2021年4月の予定で、現状では詳細は未定としたが、この発表は自動車部品の構造改革に「待ったなし」を強く印象づけた。
デンソーおよび愛三工業の株価は、アイシンの発表後にともに強い基調に転じた。つまりアイシンの再編発表が、投資家に対し「デンソーにも再編アクションが遅かれ早かれ必ず起きる」との連想を呼び、デンソー株に期せずして「二の矢」を継いだといえるだろう。
前週は日本電産の決算発表時に、ハイブリッド車向けに、モータとギア、インバータを一体化した「トラクションモータシステム」を日電産が積極的に生産する取り組みがトピックとなった。100年に一度の大変革はすでに揺籃期(ようらんき)を過ぎ、自動車メーカー・自動車部品サプライヤーの事業再構築・統合はますます加速しそうだ。
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