上場企業の決算に異変が起きている。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経営環境の激変で、企業が業績予想の開示を避けるようになったのだ。3月以降に企業が開示した決算発表などを集計したところ、4割の企業が業績予想を未定とした。投資家にとって最も基本的な指標である予想PER(株価収益率)は、企業が公表する純利益の予想を基に算出する。PERを計算できなくなれば個別株が割高か割安かを判断しにくくなるばかりか日本株全体の評価が難しくなり、投資家が日本株投資を敬遠する可能性がある。
QUICKは決算発表の結果や業績予想について独自に集計し、17日から特設サイトで公表を始めた。通期決算を発表した2月期と3月期決算企業のうち44%が、今期の予想を非開示とした。増益予想が36%、減益予想が19%となる。これから5月にかけて3月期企業の決算発表が本格化する。QUICKでは特設サイト*を通じて最新の情報をお届けする。
■トヨタ、ホンダ、東芝・・・日本の代表企業もコロナの影響不可避
新型コロナウイルスは外需企業、内需企業とも業績に大きな影響を及ぼす。中国など海外では工場休止が相次ぎ、素材や部品など日本企業の調達網に大きな打撃を与えた。外出自粛に伴い世界各地で消費の減退も避けられない。
トヨタ自動車は国内の完成車工場で生産調整を実施する。新車需要の減速に加え、必要な部品が手に入りにくくなっているためだ。減産規模は7万9000台になる。ホンダや日産自動車、スズキなど他の国内メーカーも軒並み生産調整を余儀なくされる。
東芝は5月6日まで本社や工場など国内の全拠点を原則として休業する。任天堂は中国で生産している主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の出荷を一時、停止した。消費低迷と企業の調達難が解消する道筋は現時点で見えていない。
小売りや外食、サービスなど内需企業は政府の緊急事態宣言を受けた営業自粛が直撃する。セブン&アイ・ホールディングスとローソンのコンビニエンスストア大手2社は、2021年2月期の業績予想の公表を見送った。訪日客の減少でただでさえ業績が悪化していた百貨店は営業自粛による休業が追い打ちとなる。3月期企業として早々に決算を発表した焼き肉チェーンのあみやき亭は新型コロナウイルスの影響が見通せないとして予想を開示しなかった。
7都道府県に限定していた緊急事態宣言は16日、対象が全国に広がることとなり、内需企業の一段の苦境は避けられそうもない。
■PERが使えなくなると・・・
PERは株価が予想1株純利益の何倍なのかを示す指標だ。例えば株価が1000円で1株利益が100円の企業ならPERは10倍になる。業種や企業規模によって水準は異なるものの、東証1部企業の平均PERは15倍台だ。15年分の利益を先取りして株価が形成されていることになる。
これまでも証券会社などは株式市場の予想が困難として業績予想を公表していなかったが、今回は幅広い業種で予想の未公表が広がっている。投資判断にPERが使えなくなれば企業が過去に蓄積してきた純資産と株価を比較するPBR(株価純資産倍率)などに頼らざるをえず、成長性を軸にした評価が難しくなる。業績予想の非開示が広がれば、投資家が株式市場を敬遠する動きにつながりかねない。
*特設サイトは有料サービスです
<関連記事>
■新型コロナの感染者数、現状がピーク? 正常化は視野に入るか
■ソニー、中部電などが決算発表の延期を表明ー最新の延期企業一覧
■景況感悪化は大震災級、「自社株は安い」は株主還元期待に? 市場でも評価
■オリックス、ヤマハなど決算発表を延期 新型コロナ影響ー延期企業一覧
■新型コロナで進まぬ決算、トップバッター常連もやっと公表―延期企業一覧
■ある地銀が示したリスクシナリオ 高配当利回りにも注意が必要か
■4月優待、コロナ後のお楽しみへ投資 中長期でもチャンス到来?
■株主総会、開催延期でどうなる「8000億円」 時期分散や「バーチャル総会」に期待も