2020年3月期の決算発表がたけなわだ。機関投資家やアナリスト、メディアは各社が開く決算説明会に参加し、業績の精査を進めている。決算説明会は投資情報の宝庫だ。プロ向けの高度で細かな情報や、メディアが報じていない中期的な投資材料が開示されている。決算説明会で使われる「説明会資料」は通常、企業のIRサイトで公開され、事業別の状況や、業績変化・予想の要因、新事業の進捗動向などが分かりやすくまとめられている。
説明会に参加するプロは、資料の情報を踏まえて、もう一歩踏み込んだ質問をする。その質問には企業の経営陣やIR担当者が直接回答するため、市場の注目ポイントに対する企業側の生の声が聞ける機会となる。それでは説明会に参加できない一般投資家は、説明会の様子をどう確認すればいいのだろうか。
<説明会資料の例(任天堂)>
■IRに積極的な企業はサイトで公開、任天堂の説明会を深掘りすると…
IR(投資家向け広報)に積極的な企業では、説明会の様子を動画で配信したり、説明会での質疑応答をテキスト化し、WEBサイトで公開している。任天堂やソニー、カゴメは説明会の動画と質疑応答のテキストを公開。ダイキンは音声と質疑応答テキスト、キヤノンも質疑応答テキストを公開している。
たとえば任天堂の説明回での質疑応答テキストを見れば、先ほど紹介した説明会資料に加えて、以下の内容が分かる。
「新型コロナウイルス感染症の影響」:2月に中国工場の操業などが一旦停止し、主に国内向けニンテンドースイッチの出荷が遅れたが、その影響は軽微で、生産状況も3月以降に徐々に回復している。
「1~3月期の販売動向」:『あつまれ どうぶつの森』が上方修正の要因。『あつまれ どうぶつの森』は日米欧の購入者の約5割がダウンロード版を選択しており、各国で「Stay Home」が推奨されていたことも背景の一つと推測。ダウンロード版ソフトの利便性を経験したユーザーは、その後もダウンロード版を選ぶ傾向があるため、事業全体におけるデジタル売上比率は上昇していくのではないか。『リングフィット アドベンチャー』は世界的な品薄状態が今も続いている。
「モバイルビジネス」:『スーパーマリオ ラン』のダウンロード数は4億超。『マリオカート ツアー』の好調に伴い、ニンテンドーアカウント保有ユーザーが1億人を超え、その後も増加中。『あつまれ どうぶつの森』の発売に合わせ、『どうぶつの森 ポケットキャンプ』のユーザー数も大きく増加した。
他にも、カゴメの質疑応答を見れば、野菜市場のマニアックな話題から、新社長のバックグラウンド、中計見直しの背景などにプロの関心があることがわかる。キヤノンも新型コロナウイルスが具体的にどのような影響を与えるかに関心が集まっている。
■説明会テキストをビジュアル化してみると…
とはいえ質疑応答の様子を公開している企業はごく一部だ。QUICKでは、SCRIPTS Asia社が独自に収集した説明会のテキストデータをテキストマイニングすることで、企業側の説明のポイントや参加者の関心がどこにあるのかをビジュアル化した。
4月28日に開催された野村総合研究所(NRI)の説明会では、「テレワーク」が比較的大きく表示される。説明会で、アナリストから社員のテレワークによる事業への影響に関する質問があったためだ。此本臣吾社長は「(テレワークが)制約になってコンサルティングの受注活動が停滞する。この夏場ぐらいまでは致し方ない」と応じている。
Zホールディングスの説明会では「PayPay」の文字が目立つ。会社側が説明会の冒頭で社長自ら成長を強調する一方、アナリストからも「コロナの影響によって外出規制になった際に3~5月で変化があるのかどうか」「どういう商材が受けているのか」等の関連質問が相次いだ。
電子部品大手の日本電産の決算説明会では「コロナ」「自動車」の文字が目立つ結果となった。アナリストやマスコミからの質問は、コロナ後の自動車業界など業界の先行きに集まった。半導体大手のルネサスエレクトロニクスの決算説明会では「インフラ」「費用」「在庫」の出現頻度が高かった。20年1~3月期は次世代通信規格(5G)やデータセンター向け設備投資の恩恵で半導体の販売が堅調だった。一方でアナリストからは主力の自動車分野における製品在庫の質問が目立った。
いずれも新型コロナウイルス問題の影響を探るうえで、市場のプロがどこに注目しているかがはっきりとわかる。企業のファンダメンタルズを分析した投資をするなら、情報の宝庫である決算説明会は見逃せない。
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