NQNシンガポール=村田菜々子
インド政府が12日に示した追加の経済対策はインド株投資を刺激し続けられるだろうか。パッケージの総額は20兆ルピー(約28兆円)と国内総生産(GDP)の10%にもなるだけに市場の期待は高く、13日の主要株価指数SENSEXは一時は5%近く上昇した。問題はこの対策が本当に実施できるかだ。インドの財政事情は厳しく、支出拡大には中央銀行による国債引き受けは避けられないとの見方がある。市場参加者の疑念は晴れない。
■「そのお金はどうやって捻出するのか」
モディ首相によると、今回の施策では地元企業の振興や供給網(サプライチェーン)整備に注力し、インドの製造業や農業の競争力を向上させる。新型コロナウイルス対策の都市封鎖で打撃を受ける経済への短期的な支援にとどまらず、生産性の向上などにも意欲を示したことで市場には「構造改革への期待が再燃した」(米シティグループ)との声があがっている。具体的な内容については今後、シタラマン財務相が数日かけて説明するという。
そのお金はどうやって捻出するのか。
インドは「コロナ前」から経済情勢が良くなかった。そのため、政府は景気減速に対応すべく既に財政出動を強化しており、2020年3月期の財政赤字はGDP対比で4.4%程度にまで広がったようだと伝わっている。シンガポールのDBSグループ・ホールディングスは「(21年3月期の)財政赤字は最低でもGDPの5.5%に拡大すると見込まれていたが、(今回の措置により)ここからはさらに2.5~3%拡大する可能性がある」と予想する。
■インド準備銀行による市場介入は?
20兆ルピーの経済対策は、インド準備銀行(中央銀行)による流動性供給などこれまでに発表済みの支援策も含まれているとの指摘が多い。いずれにしても「インドの財政状態を考慮すると、GDPの10%に当たる追加支出の余力があるとは考えにくい」(米シティグループ)状況で、通常の国債発行だけではまかなえない公算が大きい。無理をするといたずらに財政や通貨安への懸念を招くだけだ。米シティは「インド準備銀による大規模な市場介入による支援や直接的な国債引き受けが視野に入る」と予想する。
インド準備銀は介入もちゅうちょせずに為替・債券市場を安定させる構えだ。だがコロナ後の新興国経済への不安がくすぶる中、「双子の赤字」を抱えるインドが投資家の資金をつなぎとめるのは容易ではない。数週間前、国内の債券市場の混乱から、ある米系の投資信託会社がインド国内での債券運用を止めたのも記憶に新しい。よほどうまく財政懸念を抑え込まないとインドの株高持続はおぼつかないだろう。
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