3月期決算企業の株主総会が6月26日にピークを迎える。新型コロナウイルスの感染拡大で社会環境や生活様式が大きく変化する中、企業がコロナ後の経営の姿を示せるかといった中長期的な戦略に市場関係者の注目が集まっている。ESG(環境、社会、企業統治)はここでも企業の将来を予測する上で欠かせない視点となっている。
新型コロナで業績に大きな影響を受ける企業が相次ぐ中、議決権行使の動きに変化が起こっている。議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、経営トップの取締役選任について「過去5期の平均でROE5%以上」などとしていた基準を適用しないことを決めた。各運用会社は配当性向など独自の賛成基準にこだわらずに議決権を柔軟に行使する予定だ。では企業への働きかけが弱まるかというとそうではない。
■ESG重視
大和総研政策調査部の鈴木裕主任研究員は今回の株主総会で「これまで出てこなかったような質問が多く出てくる」と予想する。例えば「ESG(環境、社会、企業統治)課題としてのコロナ禍対策などがテーマとなる可能性がある」(鈴木氏)。従業員の安全確保、雇用維持にどのように取り組んでいるか、リモートワークの推進度合い、逆にリモートワークによる情報漏洩や盗難への対応、作業効率の維持などが考えられる。
みずほフィナンシャルグループ(8411)には、温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定の目標に沿った投資のための経営戦略を記載した計画を年次報告書で開示することを求める環境NPOからの株主提案が出された。「電力会社を除くと環境関連の株主提案は事実上初めてとみられる」(野村資本市場研究所の西山賢吾主任研究員)。今後環境団体などによる同様の働きかけが日本でも増える端緒となる可能性がある。
第一生命保険は4月、全上場企業を対象に「継続的な対話にもかかわらずESG課題への取組進捗が見られない企業については代表取締役の再任に反対する」との議決権行使基準を適用した。「機関投資家の間で企業のESG対応を促す議決権行使が増えてきている」(大和総研経営コンサルティング部の吉川英徳主任コンサルタント)。
■3月から充実、有価証券報告書が頼りに
株主総会ではその他、持続性の観点から経営陣が感染した際の後継計画が求められる可能性もある。「株主にとっては、投資先企業がコロナ禍をどのように乗り切ろうとしているか、ポストコロナの経営をどのように見通しているかが大きな関心事だ」(大和総研の鈴木氏)。
一助となるのが今年3月から開示内容が充実したばかりの有価証券報告書だ。経営者が経営環境や事業のリスクをどう認識しているかを記載する必要がある。リスクの単なる列挙ではなく、リスクが顕在化する可能性や時期、事業への影響、対応策を示さねばならない。コロナ禍で先行き不透明な中でどう対応するかなど、投資家にとっては企業の危機管理の手法や姿勢をうかがうことができる貴重な資料となる。開示が徐々に始まった3月期決算企業の報告書は、株価材料としても注目されそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)高和梓、菊池亜矢〕