6月17日の米株式市場で電動トラックのニコラが反発し、一時は前日比9.6%高の68.97ドルを付けた。米投資銀行のカウエンが17日、投資判断「買い」で調査を始め、好感した買いが入った。第1号車種の生産は来年後半からで、今年の売上高はゼロというスタートアップ企業だ。だが、製品開発力への期待から「第2のテスラ」になるとの思惑が先行している。
■ニコラ投資家、増加数が全米2位
ニコラは上場していた特別目的会社と合併し、6月4日に事実上の新規上場を果たした。直後から人気を集め、9日には株価は一時93.99ドルと4日終値の2.8倍に急騰。時価総額は339億ドル(約3兆6000億円)と自動車大手のフォード・モーター(9日高値で295億ドル)を上回る場面があった。
個人向けの株式取引アプリ「ロビンフッド」のデータによると、ニコラ株を買った投資家は足元で15万人強。実質的に上場してまだ10営業日目だが、過去1カ月間の増加数でみても米株全体の2位につける。思惑先行の個人の買いが株価を押し上げている。
■テスラとは対照的なエコシステム
創立は2015年。「バッテリー型」と水素を使った「燃料電池型」の2種類の技術を持つ。商用トラックが主力だが、ピックアップトラックの開発も進めている。燃料電池などの開発では独ボッシュ、車両生産では産業機械の欧CNHインダストリアルという世界的な大手メーカーと提携している。自前の開発・生産にこだわるテスラとは対照的だ。
もっとも、生産開始はバッテリー型が早くて来年後半、燃料電池型は2023年とみられ、今期(20年12月期)の売上高はゼロ。カウエンのアナリスト、ジェフリー・オズボーン氏は「ニコラが構築したエコシステム(大手との連携)は強力」と指摘する。2026年12月期とかなり先だが、販売台数2万5500台、売上高EBITDA(利払い前・税前・償却前利益)比率を15%と予想する。目標株価は79ドルに設定した。
■テスラ、トヨタに迫る
テスラも米国市場でセダン需要が頭打ちとなる中、商用トラックとピックアップトラックの開発に力を入れている。10日にはイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が従業員に宛てた電子メールで、商用トラック「テスラ・セミ」の「量産に移行する時だ」と表明した。事業の本格化を期待した買いで同日のテスラ株は一時、初の1000ドル台に乗せた。時価総額は17日終値で1839億ドル(19兆6700億円)と、自動車で世界最大のトヨタ(22兆6500億円)が視野に入る。
成長市場で正面からぶつかり合うことになるテスラとニコラ。実は両社の社名は、交流の電力システムを考案し、発明王トーマス・エジソンのライバルだったニコラ・テスラから取っている。ニコラ株の上昇は期待先行の危うさもはらむ。今月下旬にはピックアップトラックの予約受付を始める。そこで市場の期待以上の注文を集められるかが最初の試金石となりそうだ。(NQNニューヨーク 松本清一郎)