アジアで半導体が動き始めている。中心となる生産地の韓国は6月上中旬の輸出額が前年同期比7.5%減と依然として前年割れながら、マイナス幅は大きく縮小した。中国向けの半導体輸出が持ち直している。韓国の半導体輸出は世界経済の回復の重要なシグナルだ。新型コロナウイルス感染の再拡大や米中貿易摩擦の再燃などへの懸念がくすぶる世界経済だが、モノの移動が復活しつつあるのは明るい材料だ。
■「アジアでの生産活動の再開を示唆」
QUICKファクトセットによれば韓国の月次の輸出額の前年同月比は3月が1.6%減だったのに対し、4月は25.5%減、5月は23.6%減と大きく落ち込んだ。IT(情報技術)関連分野の世界的な在庫調整や米中摩擦の影響で不振が続いた韓国の輸出は、今年初めから回復しつつあった。だが、新型コロナが一気に吹き飛ばした。
6月22日に税関当局が発表した6月1~20日の輸出額は減少幅が大きく縮小した。カナダのスコシア銀行は22日付リポートで「顕著な回復で、アジアでの生産活動の再開を示唆している」と評価する。
■韓国半導体の存在感
パソコンやスマートフォンなどさまざまなモノに搭載する半導体。韓国は売り上げで世界シェア2位であるサムスン電子、3位のSKハイニックスを抱え、IT調査会社である米ガートナーによると2社合わせて世界の売り上げの2割弱を占める。IT分野の世界的なサプライチェーン(供給網)における重要な存在だけに、韓国の輸出の戻りは世界の景気を占う重要な指標になっている。
韓国の中央銀行である韓国銀行は、月次の半導体の輸出数量指数を算出している。4月は前月比20.6%低下の201.26(2005年=100)だった。公表日が早いわけではなく速報性には欠けるものの、世界的に関心の高い米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数と一定の連動性があるとして注目する投資家は少なくない。韓国での半導体の存在感の大きさを考えると、同国の輸出全体の動きが米国の製造業の景況感と連動しているということも可能だろう。
「生産が緩やかな回復基調にあるのは間違いないが、それが最終需要の回復につながるかは不透明」(大和アセットマネジメントの亀岡裕次チーフ・エコノミスト)との声もある。今後の世界の景気回復は新型コロナの感染「第2波」次第であるのも確かだ。
とはいえ、世界経済は少しずつ持ち直している。日米などの株価を巡っては「金融緩和が押し上げており、実体経済が伴っていない」との見方は少なくない。それだけに実体経済が改善に向かっているシグナルは見落とせない。〔日経QUICKニュース(NQN)松下隆介〕