政府は国連人権理事会で2011年に採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施に向けて行動計画づくりを進めている。指導原則を策定したジョン・ジェラルド・ラギー氏はQUICK ESG研究所によるウェブ会議で、企業の取り組みについて先行事例に学ぶべきだと主張した(ウェブ会議の動画はこちら)。そこで英蘭ユニリーバが2015年に世界で初めて開示した「人権報告書」をひもといてみた。
■差別や適正賃金など8つの顕著な人権課題
ユニリーバの「HUMAN RIGHTS REPORT 2015」は2015年2月に公表された「国連人権報告フレームワーク」に沿って作成され、同年7月に開示された人権課題に関する同社の独立した報告書だ。同社のホームページから入手した英語版の報告書は68ページの分量がある。
ユニリーバは同社にとって「顕著な人権課題」がある分野として、①差別、②適正賃金、③強制労働、④結社の自由、⑤ハラスメント、⑥健康と安全、⑦土地の権利、⑧労働時間――の8つを取り上げている。
例えば、適正賃金について、茶の生産に従事する人々の低賃金についてアフリカのマラウィでの取り組みをコラムで扱っている。ハラスメントに関してはケニアのケリチョにあるユニリーバ・ティー・ケニアでの女性の安全に焦点を当てた対応について、従業員だけでなくコミュニティを巻き込んだ事例を詳述している。同じ人権課題でも国・地域や事業特性によって人権への負の影響が異なる点を踏まえ、拠点別に詳細に分析した上で人権リスクの軽減・防止策を実施している。
■世界各国のサプライチェーンを含む従業員にも関与
報告書の冒頭でポール・ポールマンCEO(当時)が「ビジネスは人権が尊重され、支持され、進展する社会でのみ繁栄できる」「今日、制度的な人権侵害のリスクは当社および他のグローバルビジネスのバリューチェーンに存在する。これは我々が解決のために立ち向かい、協力しなければならない現実だ」と指摘している。
報告書からはユニリーバの世界各国のサプライチェーンを含む従業員の生活水準の向上や安心した暮らしに積極的に関与していく姿勢が見て取れる。2017年12月には88ページとボリュームアップした人権報告書の第2弾を開示している。
企業は「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って、人権を尊重する方針を示し、人権リスクの特定・評価、軽減・防止策の検討および実施、そのモニタリングをおこなう人権デュ―デリジェンスを実行し、さらに救済の仕組みを整えることが求められている。日本でもすでにANAグループのように「人権報告書」を開示する企業もある。ESG(環境・社会・企業統治)のSそのものである「ビジネスと人権」の課題への対応が急務だ。(QUICKリサーチ本部 遠藤大義)